(犯人その他を明かしています。) 『九つの答』[i](1952年)は、ディクスン・カーの最大長編のひとつである。原書がないので、翻訳で比較するだけだが、『アラビアン・ナイトの殺人』(1936年)より長いし、前年の大長編『ビロードの悪魔』[ii](1951年)よりも長い。 しかし、超大作かというと、全然そんな印象はなく、サクサクと読める。『ビロードの悪魔』のように、17世紀の歴史風俗に関する蘊蓄のようなものもなく、途中、英国放送協会(BBC)についての、実体験に基づく具体的な描写があるが、読むのにうるさいほどではない。むしろ、あの韜晦趣味が強く出ていないので、カーの小説のなかでも読みやすいほうで…