(犯人を名指しはしていませんが、気づかない人はいないでしょうね。) 『喉切り隊長』(1955年)は、ディクスン・カーの歴史ミステリのなかでも、もっとも「ミステリ」らしい作品といえそうだ。ただし、パズル小説ではなく、スパイ小説である。ジョゼフ・フーシェが登場するせいもあってか、対するイギリスのスパイ、アラン・ヘッバーン(日本では、正しくなくとも、ヘップバーンのほうが馴染みがありますね)、フーシェ配下の女スパイ、イダ・ド・サン=テルム、アランの妻マドレーヌの四人が、全編にわたって、腹の探り合い、騙し合いを展開する。ジョン・バッカンやエリック・アンブラ―を研究したのだろうか。 ナポレオン戦争さなかの…