(本書の内容を開示している他、関連するカーの諸作およびモーリス・ルブランの短編小説の題名を注で挙げているので、ご注意ください。) 『嘲るものの座(猫と鼠の殺人)』(1941年)は、1940年代前半の典型的なカー作品である。 余分な夾雑物のないシンプルなプロットで、たったひとつの謎にすべてを賭けている。独創的なトリックや新しいアイディアが用いられているわけではないが、最後の謎解きで真相が明らかになる瞬間は、奇術の舞台で、箱のなかに消えた術者が、一瞬で客席に現われる驚きがある。まさに、目からうろこが落ちる。 ハヤカワ・ポケット・ミステリ[i]に収録されていたが、1981年に創元推理文庫から新訳が出…