(本書のほか、江戸川乱歩『偉大なる夢』、『化人幻戯』、「月と手袋」、横溝正史「廃園の鬼」の内容に触れています。) 『皇帝のかぎ煙草入れ』(1942年)[i]は、1940年代に書かれたディクスン・カーの代表的傑作との定評を得てきた。 またしても張本人は江戸川乱歩である。 「このトリックはアリバイに関する不可能興味の最もズバ抜けたものである。不可 能中の不可能が可能にされている。又ナポレオン皇帝の嗅ぎ煙草入れが極めて巧みな 小道具として使われているが、この品についての一つの盲点が犯罪発覚の端緒となる あたり、実に心憎き妙技である。」[ii] それはもう手放しのほめようである。この背景には、乱歩が実…