1989年の初夏だろうか、東京・六本木のギャラリーで画家の木葉井悦子さんから上條陽子さんを紹介された。「種村季弘さんの友だち」という木葉井さんの紹介に上條さんは反応し、『上條陽子画集』PARCO出版局1989年5月26日 第1刷を私に恵まれた。未知の画家の3500円の画集のお礼をしなくては、と三日間じっくりと画集を見つめていた。詩人の天沢退二郎が文を寄せている。彼の著書『紙の鏡』の「つげ義春論」に感心した記憶があった。が、この「この人間たち──上條陽子の絵に」の詩的文章には感心しなかった。違うな、という印象。私ならこう書く、と三日三晩うんうん唸りながら手紙を綴った。九月だったか、上野のギャラリ…