現代イタリアの作家イタロ・カルヴィーノの小説『レ・コスミコミケ』と『柔らかい月』に登場する謎の語り手。老人。 何故かこの宇宙の生い立ちを知っており、さも読者たちの驚きを見透かしたかのように、その驚愕の物語りをさらりと語る。 「Qfwfq」の発音については、国際的にどう発音したものだか困惑されるようであるが(ラテン語の発音と同じで各国語の「方言」によって読まれているに違いない)、日本語の「くふうふく」という読みは存外まともな読み方らしい。
Qfwfq老人が、宇宙創成や恒星の誕生の頃、あるいは自分が恐龍だった時代や陸上生活を始めた頃の脊椎動物だった時代を語った物語を集めた連作短編集 「自分が恐龍だった」とか何やねんという話だが、実際Qfwfqが「わしは恐龍だった」云々と語っているのであり、Qfwfqは宇宙創成どころか宇宙の始まりの前から存在していて、宇宙が存在するようになるか賭け事をしていたり、ガス円盤の中で家族とともに生活していたりしたというのである。 そんな話が11篇集められているが、そのうち7篇は実はラブロマンスものであり、時空を超越した舞台設定をしつつも、繰り広げられる物語は人間くさい話だったりするが、その双方の相乗効果で…
北村薫さんの新しい作品集が出ました。タイトルは『水』、サブタイトルは「本の小説」です(新潮社)。前作『雪月花――謎解き私小説』(同)と同じく、本や作家をめぐるエッセイ風の小説です。今回の趣向は、一冊の本が別の本につながり、ある作家が別の作家とつながる。もちろん、北村さんのことですから、話題は本の世界にとどまらず、映画、歌舞伎、落語、漫談……と「謎」を縦糸に縦横無尽に話がつながっていきます(この本の文体を模して、今回は敬体で書くことにします)。 読み進めていると、チェーホフの『かもめ』が出てきました。このブログで『かもめ』について書いたばかりだったので、北村さんの本とこのブログが細い糸でつながっ…
先日からの「横しぐれ」の余韻が続いていますと記しますと、いかにもこの 小説を再読したように思われてしまいますが、まだまだであります。 先日に qfwfq 様からコメントをいただいて、あれこれと丸谷さんの古い本を 取り出してきては気になるところをチェックしたりです。 先日のコメントには、一週間ほどかけて再読したとありましたので、この作品 はそれだけ時間をかけるに値するものであるということがわかりました。 当方は、最初「群像」に掲載されたときから、何度か読んでいるのですが、筋を 追うのが楽しい作品という印象であったのですが、それから48年もたっていて、 それこそ作中人物である主人公の父の享年(六十…
本日はお天気よろしとなって気温があがりました。日中の最高気温は19度で ありますので、外仕事をするのにはもってこいでありましたが、台所であれこれ と仕事をすることになりました。 この週末に予定している栗をつかったケーキのためにスポンジ台を焼いたり、 アップルパイのために紅玉の皮むき、カットしてから煮て、バターと粉でパイ生地 の仕込みをしたりです。 たまたま夕食は餃子にしようということになって、市販の餃子の皮にあんを包む こともやりましたです。 というふうに記しますのは、本日は忙しくて本を読む時間がなかったなという 言い訳のためでありますね。今はTVで野球を見ているではないかでありますが、 ほん…
ツイート amass @amass_jp 四人囃子のキーボーディスト、坂下秀実が死去。四人囃子の公式サイトで発表されています https://amass.jp/159677/ 23:09 jagp40 @jagp40nagoya 日本集団精神療法学会大40回学術大会(JAGP40) ウェブサイト公開しました。https://jagp1983.com/?page_id=7317 22:53 裕 @you999 学生授業アンケートの連絡来ていないなと思ったら封書で来ていた。重要な連絡を紙ベースで行うのはほんとうにやめてほしい。 13:59 裕 @you999 「みみず書房」コレクション披露してしま…
いささか旧聞に属するけれど、レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』の新訳が出た。訳者は田口俊樹、タイトルは『長い別れ』。ハメットの『血の収穫』、ロスマクの『動く標的』の翻訳に次いで、「ハードボイルド御三家」の長篇に満を持して挑戦した、とのこと。 清水俊二訳の『長いお別れ』も村上春樹訳の『ロング・グッドバイ』もすでに読んでいるのに新訳に手を伸ばしたのは「例の個所」がどう訳されているかを確かめたかったからだ。以前、ここで片岡義男と鴻巣友季子の共著『翻訳問答』について「チャンドラーを訳すのはやっかいだ」と題して論じたことがある。その個所を中心にかなり詳細に紹介したので、興味のある方は以下の…
Qfwfq老人(別の訳者ではクフウフクと表記)のホラ話。科学の記述を聞くと、わしはそこにいたと叫んで、思い出話に花を咲かせる。1965年初出。 月の距離 ・・・ 月の軌道がいまより地球に近かったころ。老人のいた岩礁から月にいくことができた(途中の無重力空間に舞う少女の描写の詩的なこと)。あるとき、老人と奥さんだけが月に取り残されて・・・。状況は科学的に記述されるのに、語られるのは18世紀の海洋ロマンスという齟齬。 昼の誕生 ・・・ まだ星雲ができていないころ、引力でガスが固まりだした。一族が眠っていると、周囲がゴロゴロして目を覚ますし、何もかもずぶずぶと沈んでいき(とはなにか)、遠くで発光して…
2022/07/19 イタロ・カルヴィーノ「レ・コスミコミケ」(ハヤカワ文庫)-1 1966年の続き Qfwfq老人のホラ話。後半。 いくら賭ける? ・・・ 宇宙ができるまえ、何が起こるかを老人は学部長と賭けをする。どんどんエスカレートして地球の歴史のささいなことまでが賭けの対象になって・・・。老人は賭けに勝つために事象を記憶し法則性を見つける。なるほどそこから天文学と力学が始まったのか。(事実、惑星の動きを予測する=賭けに勝つために科学研究が始まった) 恐龍族 ・・・ 恐竜が絶滅して5000万年。最後の一匹となった老人が新生物の群れに入る。異分子として敬遠され、喧嘩に勝って一目置かれるように…
「レ・コスミコスケ」1966年に続く1967年の短編集。第1部はQfwfq老人のホラ話。訳者が変わったので、老人のイメージから中堅サラリーマンのようになった(一人称が「わし」から「私」に変更)。でも、底を流れるのは過去が回復しないことへの諦念。同類や仲間がいなくなってしまった孤独。現在への退屈。 第一部 Qfwfq氏の話柔かい月 ・・・ 月の軌道が変わり、地球に近づく。すると月の柔らかい成分が地球に降り注ぐ。月はチーズでできているという西洋の伝承にあるイメージからなのだろう。Qfwfqはシビルという天文学者と結婚している中年になっている。 鳥の起源 ・・・ 爬虫類から哺乳類が分かれたのが2億5…
2022/07/14 イタロ・カルヴィーノ「柔らかい月」(ハヤカワ文庫)-1 1967年の続き 以後はQfwfq氏の名は出てこない。でも「ティ・ゼロ」で「私Q0(0は小文字)」と表記されるので、Qfwfq氏が語り手だと推測可能。 第三部 ティ・ゼロティ・ゼロ ・・・ 突如ライオンと便宜的に呼ぶ動物に襲われ、射った矢が「私」とライオンの距離の3分の一を通過した瞬間(しかし現代の機器で測定可能な継続)、「私」が考えること。いわば「シュレディンガーの猫」がはいっている箱のふたを開けられた瞬間(とは何か)に猫が体験したことだ。その執拗な記述。すると、この「瞬間」に至る前に宇宙開闢から経過した数百億年(…
前述の水村美苗の「ノーベル文学賞と『いい女』」というエッセイには、『雪国』の英訳に関してもう1ヶ所、興味深い指摘があった。島村が駒子に「君はいい子だね」といい、それが「君はいい女だね」という言い方に変わる場面である。ざっとおさらいしておこう。新潮文庫では145頁。 宿で、冷酒で悪酔いした島村を小さな子を抱くように介抱する駒子。島村はおさなごのように安心して駒子の熱い体に身をまかせたというから、添い寝でもしていたのだろうか。「君はいい子だね」島村はぽつりという。「どこがいいの?」と問う駒子に「いい子だよ」と繰り返す島村。要領を得ない言葉に駒子は「そう? いやな人ね。しっかりして頂戴」と取り繕いな…
祝日(みどりの日)。晴。 「qfwfqの水に流して Una pietra sopra」という尊敬すべきブログがあるけれど、今年初めてのエントリが投稿されていることに気づいた。川端康成『雪国』の NHK ドラマを見て、小説の中学生以来の再読をした、という話である。深みに届いた文体で、繊細な読解がなされていて感嘆させられるが、わたしの能力を軽々と超えているので、中身についてはこれ以上書けない。さて、以下個人的な、幼稚なことを書くが、『雪国』の扱う、男女の愛欲そのものは、それは永遠のものにちがいないが、このような形態としては、既に時代遅れというか、ほとんど滅びてしまっているものだ。ブログエントリにも…
今年は川端康成の没後50年にあたる。そのせいか、NHKBSプレミアムで『雪国―SNOW COUNTRY―』が放送された(4月16日)。脚本藤本有紀、演出渡辺一貴、主なキャストは駒子が奈緒、島村が高橋一生、葉子が森田望智。奈緒の演ずる駒子は、「清潔な」と称されるとおりの透き通った表情で、雪景色のなかにひっそりと佇む姿は儚げで息を呑むほど美しい。いまどきの女優さんにはめずらしい雰囲気がある。 冒頭、汽車に乗った島村が温気にくもる窓ガラス越しに葉子を認める場面。蒸気機関車の汽笛の効果音が入る。だが実際は、国境の長い(清水)トンネルを越えるには、煙の出るSLではなく電気機関車が用いられたといわれる(2…