足跡が無くなっても、過去そのものは消えないという事は知っていた。 大切な場所がなくなったとしても思い出は消えないもので、ふと振り返った時に辿ってきた道が見えなかったとしても、これまで見てきた景色は鮮明に思い出せる……はずだった。 思い出が消えないのだという命題そのものはなにも間違ってはいない。理由はシンプルで、それが「思い出」である以上、必然的に記憶に刻まれているからだ。 思い出という言葉は思い出せなくなった過去に対して振り当てられた名詞ではない。消えていないから思い出なのである。