八月も後半になってから、台所で蚊遣りを焚くようになった。ここは、ほどほど高層階ではあるのだが、なぜか山のほうからバッタの仲間がやってきて夜中に廊下の真ん中、わたしの行く手に立ちはだかっていることが、昨年ままあった。いきおいよく跳躍する昆虫などみることはたえてなかったものだから、はじめのうちはじっくりと凝視していた。するとバッタのほうでもきまずくなったのか、やがて、『わかればええんじゃ、どあほう』と捨て台詞を吐く感じで悠然と去って行った。いったい、なにをわかるというのだろう。そして、バッタに「ドアホウ」と罵られたように感じていたわたしの心弱りの程度の甚だしさといったら、どうだったろう。だからとい…