Scene12 2/3
抱き上げてみると、モップは想像よりもずっと細く、軽かった。
モップはまったく抵抗しなかった。軽く私に抱きつき、耳元で鳴き声をあげた。ノートに触れるか、触れないか、ぎりぎりの高さを動かして書いた線みたいな。細く、途切れがちな鳴き声だった。
鳴き声は、言葉とは違った方法で情報を伝える。
彼はお腹が空いているのだ、とわかった。
もちろん私は、食べ物なんて持っていなかった。でも、うちの冷蔵庫にはまだ、昼食の残りが入っているはずだ。
――この犬は私が助けなきゃいけない。
理由なんてない。でも、強く確信していた。
私はモップをベンチに座らせる。
「待ってて。ここで」
そう言い聞かせて、立ち上がる。
駆け出した。
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