No Meat, No Life.

横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。

2014年12月11日 都内某店


ミシュランで星を獲得した経験を持つ料理長の一宮さん。
“あら皮”をはじめ都内の炉窯ステーキの名店で20年間肉を焼き続けている菅井さん。
この二人で目指すのは神戸の”あら皮”を超えるステーキ。
その為普段から純但馬血統である神戸ビーフに拘った仕入れを行っているのだが、今回は私がどうしても食べてみたくて、またどうしても食べて欲しくて持ち込んだ神戸ビーフ(三田牛)で特別に勉強会を開催して頂いた。

『第1回神戸ビーフ・但馬牛勉強会』といったところ。
私が持ち込んだ肉は2種類。
兵庫の田村さんの純但馬牛、雌、37か月
個体識別番号1339083207
福芳土井-鶴丸土井-谷福土井

兵庫の勢戸さんの純但馬牛、雌、37か月
個体識別番号1338350003
照美土井-福広土井-菊俊土井

肉を手に取った一宮さんがほほ笑む。
毎日肉に触れている職人だからこそ、すぐにその肉のポテンシャルを感じ取るのだろう。
串を打つ前には、肉の間にかんだ筋をナイフでスーと取り除いていく。
口の中で引っかかる筋だが、ほとんどのお店ではそのまま提供するだろう。
“くいしんぼー山中”しかり、”スタミナ苑”しかり、そして”イデア”も。
名店に共通した丁寧な下処理だ。

形を整えられ串に打たれた肉に塩胡椒が振られる。
肉の厚さから計算された、最も肉の味が引き立つ量が頭の中でイメージされているのだろう。
無造作に行っているような動作だが、後から食べれば、その絶妙さに目を見張る。
ここからは菅井さんの出番。

炉窯の中の炭を見ながら、肉を入れるタイミングを計る。
炉窯へ投入された肉は、赤々といかった炭から数cmの距離。
しかし炎は上がらない。
これも酸素の供給量を調整できる炉窯ならではの特徴だろう。

また炭から離して余熱でも火を入れる。
菅井さんの真剣な眼差しは肉だけを捉えている。
炉窯から肉を出して確認したのは3回ほどだろうか。
肉の弾力や串の温度で焼き上がりが確認され、遂にステーキが運ばれてくる。
一気にテーブルに広がるステーキの香りは、上質な肉だけが持つ独特なもの。


まずは勢戸さんのサーロインから。
視覚と嗅覚を刺激する肉塊の表面はパリッとした焼き上がり。
しかし、よく研がれたナイフはスッと肉の中に入り込み、赤身とサシが混じり合った芸術品を簡単に切り分ける。
この芸術品を口に運べば、まろやかなサシの甘みが広がるが、しつこさは皆無で、滑らかな舌触りも残す。
また、肌理の細かな赤身から広がる旨みも強く、サシとのバランスは見事しか言いようがない。


続いて田村さんのサーロイン。
このステーキの評価は、この断面が全てを物語っている。
メイラード反応による薄皮1枚分の焼き面はそれ以上ないカリッとした仕上がり。
内部は焼く前のサシが消え、濃い小豆色の肉色が冴える。
過去の経験から、月齢が35ヶ月以上のヒネた雌の純但馬血統の場合、焼き上がりではサシが消え、繊細でプルンとした舌触りになる肉がある。
冬の朝日で消える霜を彷彿させる、真の霜降りなのかもしれない。
そして、こういった肉の味は別格。
過去には神戸の”あら皮”や新橋の”あら皮”で体験したことがある至高の肉なのだが、今回の田村さんの純但馬牛もこれと同じ。
1ヶ月前のBBQでも食べたが、田村さんの純但馬牛の凄みは、今まで積み上げてきた経験を全てひっくり返すぐらいのポテンシャルを感じる。


最後は一宮さん、菅井さんやこういった純但馬牛を食べ慣れた方と意見交換し勉強会を終えた。
じっくりと丹精込めて肥育された純但馬牛のサーロインを炉窯の肉焼き師に焼いてもらう。
もはやこれ以上はない。
そう言い切っても過言ではない。
そんなステーキに出会えた勉強会に感謝したい。