横田夫妻が見抜いたこと・・拉致問題解決にむけて

北朝鮮の拉致問題について、日常的にマスコミが取り上げるようになってから数年がたちます。まだ未解決の事件が多い中で、3家族の日本への帰国が実現したこと、本当に嬉しく思います。

この事件にまつわる報道で、ちきりんには、“これはすごい!”と思った発言が3つあります。こういう時に、その人がどういう人かわかるよな、と思わせる発言3つです。


ひとつは横田夫妻の言葉。

“皆さんどうかこの問題に関心を持ち続けてください。”という言葉です。

ほぼすべての講演会やインタビューにおいて夫妻はこう呼びかけられます。これを聞くたびに、ちきりんは、この問題に世間が無関心であった30年の間の夫妻の苦悩がにじみ出ている、と思うのです。


誰も関心を持ってくれない時代においては、政治家もマスコミも拉致問題を、解決すべき人権問題としては捉えず、なんらか自分に有利に働くかもしれない政治の種、記事のネタとしてしか考えていなかった。

ワラにもすがる思いの拉致被害者の家族の方が、このような人達の動きによってどのような思いをされてきたか、心が痛みます。


横田夫妻にとっては、北朝鮮の核の威嚇よりも世間の無関心の方が怖い、そんな気持ちなんじゃないかとさえ。“世間”が監視しなければ北朝鮮が動かない、ではなく、世間が監視しなければ日本の権力者、マスコミが動かないということなのでしょう。

朝日新聞などは、拉致問題が盛り上がる直前まで一貫して北朝鮮擁護的な論調であったと記憶しています。社会党も同じでしたが、むしろ数百万部もの部数を誇る一般紙の罪の方が大きいと思います。

マスコミってほんと人の批判はするけど、自己批判も反省もしない。びっくりです。個々の記者の方には忸怩たる思いもあるんじゃないかとは思いたいですけど。


★★★


もうひとつの発言は、有本さんのご両親の発言。
“恵子は他の方のケースとは違います。ついていったあの子も悪いんです”というご発言です。

悪いのは、明らかに連れて行った人です。それでもこういう発言をされるご両親としての思いにも涙がでそうになります。

イラクに行ったボランティア(?〜の人が誘拐された時、テレビの前で日本政府に悪態をつきまくった家族の方がありました。

あのお二人は若くて、親の会社以外では働いたことのない方たちだったから社会的な成熟性という意味では比べようもないのですが、それでも身内の命が危なければ、ある程度身勝手な言動がでてしまうのは仕方ないところもあるでしょう。


その中で、自分の子供の無知・無鉄砲な行動にたいして親としての後悔と反省を含め、“ついていった娘の責任”に触れられるお気持ちは本当にかわいそう。

もちろん、被害者コミュニティの中での問題もあるでしょう。

別の解決方法を探っている拉致被害者の方に、新潟で漁船で北朝鮮に拉致された寺越さんのケースがあります。こちらは、拉致されたという事実を問わない(責めない)ことで、現在、平壌の息子さんと自由に会えるという状況を確保されています。

おそらくこの方も、いろいろ批判されているのだと思います。拉致そのものを認めず、安易な解決方法を選んでしまうと他の家族の方に迷惑がかかる、そう感じる人もいるでしょう。

それぞれの方に事情があり、思い悩まれた上での選択だと思うのですが、どちらのご家族の方も痛ましい。そもそも拉致がなければ、そのような反発や気遣いなどまったく必要なかったわけで、ほんとに北朝鮮なんとかしろよ、って感じです。


★★★


私は有本さんがロンドンに留学されてた頃に、バックパッカーとしてヨーロッパを回っていました。

確かにあの頃は、あちこちで変な日本語を話す外国人に会いました。ほとんどはお金目当てか痴漢だったと思いますが、それでも、今振り返っても、ぞっとする思いです。

“私はついていかないわ”という気持ちもあるし、一方でもし計画的に仕組まれていたら、どうなっていたかわからないとも思います。無鉄砲な行動は若者の特権だし、そこから得られるものもたくさんあるのですから。


最後に感動した発言は美智子様のスピーチです。

“なぜこんなにも長い間、私たちはあの方々の不在を自分のこととして共有できなかったのか悲しく思います。”的なご発言でした。


美智子様すごい! と思います。あれはまさしく日本国民を代表しての、拉致被害者の方、ご家族の方への謝罪ですよね。

もともと皇室ってそういう役目を期待されてるとは思いますが、ここまで実質的な意味のある発言はあまり聞いたことがないくらい。


北朝鮮崩壊説を唱える人もいるけど、自己崩壊なんてありえないでしょう。日本だってふたつも原爆が落ちて、沖縄が火の海にならなければ決断しなかった。

独裁者は国民が死のうと飢えていようと平気です。自分の身に危険が及ぶところまでこなければ、両手をあげたりはしないのです。


どうやったらこの状態に終止符が打てるのか。この問題の解決には、時間が重要です。

人間の命は永遠ではない。なんとかひとめ娘息子に会いたいと思われる家族の方の思いを実現させるには、いったいどのような解決方法があるのでしょう。


ではまた明日です。



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