Googleへの拒絶反応の行方

昨年、和解案が公表されて以来くすぶっていた問題が、5月5日の回答期限を前にして、一気に吹き出し始めているようだ。

「ネット上で書籍の内容を閲覧・検索できる米グーグルのサービスが日本でも波紋を広げている。著作権侵害を訴えていた米出版界と同社の間で昨秋に和解案が固まったが、その当事者に日本の作家や出版社も含まれる可能性があるためだ。和解案を受け入れるかどうかを決める期限は5月5日に迫っている。作家や約2500人で構成する日本文芸家協会は会員に対し、和解したうえでデータベースから著作物の削除を求める手続きを取るよう勧めている」
日本経済新聞2009年4月25日付朝刊・第3面)

という記事が出た日の夕方には、

著作権管理団体である日本ビジュアル著作権協会(東京・新宿)は25日、同協会に所属する著作権者の約半数にあたる174人の作家らが、米グーグルが進める書籍データベースへの収録をめぐる和解案から離脱すると明らかにした。」
日本経済新聞2009年4月25日付夕刊・第6面)

離脱を表明したのは詩人の谷川俊太郎さん、脚本家の倉本聰さん、詩人・作家のねじめ正一さんら、ということで、記事の中では、同協会の、

「和解案の公表から回答期限まで2か月強と短すぎるうえ、日本の著作権者の意見はまったく入っていない。必要なら今後、別の訴えを起こす」

というコメントも紹介されている。



筆者自身は、米国のクラスアクション関係の知識をほとんど持っていないので本件について解説しようがないし、さらに言うと、この米グーグルらによる「図書館プロジェクト」の帰趨が、我が国の著作者、出版社に対して深刻なデメリットを与えるとは到底思えないから*1、これまでこの問題について言及していなかったのであるが、↑のような反応を見ていると、我が国の文芸界、出版界の“ネット・アレルギー”が相当根深いことがうかがえて興味深い*2



いずれにせよ、回答期限や、和解案の正式承認等、この件に関するイベントはしばらく続きそうだし、記事になる機会も多いだろうから、自分の方でもちょっとは勉強しておかないとなぁ・・・と思う次第である。



なお、今のところ参考情報としているのは、

Google社の「ブック検索」に対する公式見解(日本版)
http://books.google.com/intl/ja/googlebooks/agreement/
日本文藝家協会の声明文
http://www.bungeika.or.jp/pdf/statement_for_google.pdf
日本書籍出版協会のコメント
http://www.jbpa.or.jp/pdf/documents/google-wakai1.pdf
出版流通対策協議会のコメント
http://ryuutai.com/
町村教授のブログエントリー
http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2009/02/class-action-7f.html?sess=632f412d5c551b09204017e8a63a8d5b
城所岩生教授のコラム
http://it.nikkei.co.jp/business/news/index.aspx?n=MMITs2000028112008
http://it.nikkei.co.jp/business/news/index.aspx?n=MMITs2000008122008

など。


日本書籍出版協会の分析などは、コンパクトでよくまとまっていると思うし、文藝家協会も声明の内容はともかく対応自体は現実的なものだと思うのであるが、より過激な意見もあるようで*3、見比べていくといろいろと勉強になる。

*1:日本よりも米国国内の方が流通量が多い作品(ないしその著作権者)の数は、極めて限られるだろうし、米国内においては“マイノリティ”に過ぎない日本の作家の作品がインターネット上で“小出し”にされることが、ある種のプロモーションになることはあっても、マイナスに働くことはほとんどないのではないか、と思われる。

*2:そもそもこれが米国内で訴訟になっていることを考えれば、「無断で複製されること」自体に対するアレルギーは、洋の東西を問わず著作権者に共通しているのだろうけど、「和解案自体を蹴とばす」という決して賢明とは思えない選択肢を我が国の著作権者がとる背景には、単なる「複製されること」へのアレルギーを超えた、もっと深い文化的ギャップがあるように思えてならない。

*3:http://ryuutai.com/

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html