快挙の裏に迫る不安の影。

グランプリシリーズのファイナルで、史上初の男女アベック優勝*1という快挙を成し遂げた日本勢。

女子は、浅田真央選手が、シーズン序盤から、五輪以降の2シーズンの苦悩を振り切るような好成績を挙げ続けているし、鈴木明子選手は引き続き独特の世界観を醸し出す演技で、これまた世界の上位をキープ。

男子に至っては、もはや大ベテランといってもよい高橋大輔選手がGPファイナル日本人初優勝、という栄誉を勝ち取って貫録を示せば、伸び盛りの羽生結弦選手が期待通りの躍進を遂げてGPシリーズ初優勝、ファイナルも2位。そして小塚、町田の両選手と合わせて、GPファイナル進出者6人のうち4人を日本勢が占める、という、ちょっと前まで「1枠」「2枠」で細々とやっていたのが嘘のような状況である。

だが、今季初めて、日本の男女の主力選手が揃って滑ったGPファイナルの映像を見ながら、自分はいくつかの不安に駆られた・・・。


まず、女子でいえば、優勝という結果こそ残したものの、浅田真央選手に対しては、「このままで大丈夫なのか?」という不安が未だ消えない。

確かにGPファイナルでの演技を見れば、SP、FSともに、一番安定感を発揮したのが浅田選手だったのは間違いないだろう。

しかし、トリプルアクセルを完全に封印していることもあって、彼女のプログラムの技術的難度はここ2シーズンと同様に戻らないままである。

ゆえに、NHK杯のフリーのように、長丁場での不安定さを露呈してしまうと、目も当てられない結果になってしまうし、完璧に近いように見えたファイナルの演技ですら、3回転ルッツのエラーエッジ、序盤のジャンプでのオーバーターン、といった細かい減点が重なると、技術点で他の選手(今回はトゥクタミシェワ選手*2)の後塵を拝することになってしまう。

長年にわたって世界の第一線で活躍している選手だから、どんなに転倒しようが、演技構成点では安定して60点台を叩きだせるだけの“貯金”はあるのだけれど、それだけであと1シーズン、しかも“敵地”となるソチの舞台にまで持ち越すことができるのか、ということを考えると、不安の方がどうしても先に立ってしまうのは間違いないところだろう。

そして、自分はそれ以上に、これだけ長いシーズンやってきたにもかかわらず、未だに「浅田真央の世界」が築き上げられているようには思えないところも気になっている。

特に、バレエ音楽&タラソワ振付で格調高く滑る今年のフリーのようなプログラムは、どんなに丁寧に滑っても、彼女の世界にはどうしてもはまっていないような気がするわけで・・・。

もしかすると、ずっと昔の“チャルダッシュ”や、扇子片手に踊っていたエキシビジョンのインパクトが、見る側の潜在意識に残ってしまっているせいなのかもしれないけれど、今年にしても、ショートプログラムの音楽に合わせて軽快に滑っている方が、ずっと浅田真央選手らしい演技のように思える*3

もちろん、プログラムを考える上では、次の五輪が北米ではなく、クラシックバレエの本場で行われる、ということも意識しなければならないのだろうし、何よりも本人が何を滑りたいと思っているのかということも大事なのだろうと思うのだけれど*4、浅田選手には、「ミシェル・クワン」とも「荒川静香」とも「安藤美姫」とも違う「浅田真央」としての魅力があるのだから、そろそろオリジナルな世界観の構築を目指してもいいのではないかなぁ・・・と思うところ*5

もちろん、“借り物のプログラム”でも、前回の五輪シーズンの全日本フィギュアで見せたような、“別の人が降りてきたような演技”で会場を熱狂に包むことはできるから、一概にそれを否定することはできないのだけれど、毎年毎年、滑りのイメージと曲を完全にシンクロさせて自分のものにして踊っている(そして、技術的な要素で欠けている部分をそこで十分すぎるほど取り返している)今の鈴木明子選手*6や、かつての村主章枝選手、そしていい意味でも悪い意味でも独自の世界観を持って滑っていた安藤美姫選手などと比べてしまうと、何か物足りなさを感じてしまうし、来シーズン以降、より技術に長けた新鋭や、キム・ヨナをはじめとするキャラの立ったベテラン勢と伍して一番いい色のメダルを目指すにあたっては、より厳しさを感じざるを得ない。

村上選手の今シーズンの大不振もあって、浅田選手、鈴木選手に続く「第三のプレーヤー」がいない、というのが今の状況だけに、せめて長年世界の第一線で活躍している浅田選手にだけは、五輪まで盤石なポジションをキープし続けていてほしい、と願うのは欲張り過ぎだろうか・・・?

一方の男子。

羽生選手の今季の躍進ぶりは、改めてここで触れるまでもないだろう。

今年の世界選手権、フリーでの快演で何かが吹っ切れたかのように、ブライアン・オーサーの指導の下、これまでの日本人選手にはなかったような伸びやかな演技を毎試合披露している姿を見ていると、自分は無限の可能性を感じてしまう*7

高橋選手も、4回転ジャンプが決まれば・・・という感じで、はまった時の破壊力だけ見れば、往年の勢いは全く衰えていない。

しかし・・・である。

バンクーバーの経験を経て、本来であれば今頃日本のエースとして君臨していなければならないはずの、小塚崇彦選手の今季の不振やいかに。

目下の最大の強敵、パトリック・チャン選手が、全く良いところのなかったGPファイナルのフリーの演技でも、90点台の演技構成点を叩きだす。シニアデビュー後、まだ2シーズン目に過ぎない羽生選手に、同じレベルでジャッジに評価されるよう求めるのは酷な話なわけで、そうなると、本来は、技術、演技ともに安定感があり、かつ大舞台での実績も残している小塚選手に活躍していただかないといけないところなのであるが、少なくとも今年の滑りを見ている限りでは、ファンの期待は今一歩届かない・・・。


男子にしても、女子にしても、年末に行われる全日本フィギュアが終われば、いろんな不安が氷解して、シーズンの後半は、“プレ五輪シーズン”らしい華やかな宴になるのかもしれないけれど、不気味な強敵が西の方で復活の狼煙を上げる中、浮かれた空気がちょっと怖いなぁ・・・と思ったゆえに、いろいろと書き連ねてしまった次第。

まぁ、あれこれ言う前に、“真駒内の聖なる夜”に何を見ることができるのか、期待を込めて見守りたいと思っている。

*1:このベタなフレーズを使うのはあまり気が進まないのだが、こういう時は楽なのでついつい使ってしまう・・・。

*2:フリーでは2位。全体では5位に低迷。

*3:そして、結果的にも、今シーズンは、ショートプログラムのスコアの方がフリーに比べて遥かに安定している。

*4:かつて、自らタラソワコーチの元へ渡ったことや、過去のインタビューでの発言等を見ていると、浅田選手自身には「大人っぽい」クラシック系プログラムへの憧れがあるように見受けられる。

*5:メディアは何でもかんでも、彼女が滑れば「素晴らしい」と礼賛するのだろうけど、多少は厳しい批評もしてあげないと、なかなかいい方にはいかないような気がする。

*6:今年のプログラムも、キル・ビル、シルクドソレイユともに、完ぺきに滑れば満場を感動に巻き込めるレベルの素晴らしいものになっていると思う。

*7:SPの音楽が、「セクスィー部長」のそれ、ということで、聞くたびに思わず笑ってしまうのだけど、彼は、そんな不謹慎なファンの目を覚まさせるくらいの素晴らしいスケーティングを披露し続けている。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html