『夏の夜の夢』

夏の夜の夢 (白水Uブックス (12))

夏の夜の夢 (白水Uブックス (12))

 シェイクスピア30歳の頃の作品で、愛と結婚がテーマの楽しい戯曲だ。原題はA Midsummer Night’s Dream。かつてこのMidsummer を「盛夏・真夏」と訳し「真夏の夜の夢」という訳が使われていたのだけれど、Midsummerは夏至夏至は妖精たちの活動が一年で最も活発になる時期だという。

 舞台はギリシアアテネの森。愛し合う二人の男女、しかし彼女には父親の決めた許婚がいる。許婚の男も彼女を愛しているのだが、彼女からは見向きもされない。そしてそんな彼を愛する娘が別にいる。この四人の男女と、お芝居の練習をしにきた大工、仕立屋、機屋などの職人たち、そして妖精の王と女王、多くの妖精たちが夏の夜を森の中で過ごす。物語のカギとなるのは妖精の不思議な薬、眠っている者のまぶたに塗ると、目覚めて最初に見た人を猛烈に好きになるという不思議な薬。この薬の効果で四人の男女の関係は一変する・・・。何ともすてきでファンタスティックなお話。夏至の夜、一年で一番短い夜の森で繰り広げられる妖精と人間との饗宴だ。

 解説によるとこのストーリーはシェイクスピアのオリジナルで、どこかにあった題材を戯曲化したのではないらしい。このお芝居を見る観客は、妖精が薬を塗る、目が覚めると薬の効果が出る。というプロセスを目の当りにする。言うならば犯行の目撃者になる。舞台の上の男女はそんなことも知らずに大まじめに恋愛する。観客は本当なら見えない妖精と秘密を共有するわけで、観客にとってここの所がたまらなく面白いのだろう。シェイクスピアの見事な仕掛けだ。本で読むのも良いが、これもぜひ舞台で見てみたいと思わせる作品だ。

 ところで、いつの時代も思うようにならないのは男と女の仲。実は本当に目に見えぬ妖精のイタズラが働いていたとしても我々人類はそれを知る由も無い。