『帰ってきたソクラテス』
- 作者: 池田晶子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/03/28
- メディア: 文庫
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そんなソクラテスが現代によみがえり、さまざまな論客と対話したらどうなるか?というのがこの本だ。雑誌「新潮45」の誌上に1992年から1994年の間連載されたもので、対話の相手は現職議員、ニュースキャスター、エコロジスト、評論家、元左翼など。全部で20の対話が掲載されている。全編会話で構成され、どの論客も最後はソクラテスにしてやられる。自分だったら「なんだか違うな・・」と感じても反論できないであろう、現代の論客達がしどろもどろになっていく。思わずニヤリとしてソクラテスに喝采を送りたくなる。その一方で中には「そこまで言わなくても・・・」とソクラテスに共感しづらい部分もあった。プラトンを読んでもこうは思わなかったので、自分も同じ現代人、彼らと同じ穴のムジナということなのだろうか。
巻末の解説で鷲田清一という方がこの本をイッセー尾形の一人芝居「都市生活カタログ」にたとえている。観客は「こんなひといるいる」と笑いながらも、彼の姿に自分自身を見て足元が地割れをするような怖さを感じるという。なるほど、そういうものだろう。
著者の池田晶子さんは日本の哲学者。ファッション誌のモデルをしていたこともあるという、天から二物を与えられたすばらしい美人だ。彼女は象牙の塔にこもる「哲学研究家」ではない。学会、アカデミズムとは一線を引き「哲学業界」の外で孤軍奮闘する、在野の「哲学者」だ。彼女の著作では哲学書としては異例の大ヒットとなった『14歳からの哲学』を目にした人も多いのではないだろうか。惜しくも2007年、46歳の若さで他界された。そんな現代の哲学者がプラトンにならってソクラテスを現代(正確には1990年代)によみがえらせた。
いかにも90年代的な部分に時の流れの速さを感じたりもするが、ソクラテスの時代から何一つ変わっていない部分もある。対話のなかの言葉を一つひとつかみしめて読みたい一冊。静かな所でじっくり読むことをお勧めする。