『ロードス島攻防記』

 地中海の東、クレタ島キプロスの間に横たわるオリーブの実のような形の島ロードス。面積は沖縄本島より少し広いくらいで、夏は涼しく冬も温暖。現在はギリシア領だが、石器時代から人が住んでいた。ルネッサンス時代のキリスト教徒にとってのこの島は、1453年のコンスタンチノープル陥落以降、イスラム教国オスマン・トルコとの地中海地域での最前線になっていた。

 1522年夏、この島の要塞を落とすべく、トルコのスルタン、スレイマン1世が20万の大軍とともにやってくる。島を守るのは聖ヨハネ騎士団の騎士600人と傭兵や島民4500人。20万対5千。圧倒的な兵員数と大砲を抱える、物量作戦のトルコと、滅び行く前時代の階級である騎士たちのおよそ半年間の戦いが描かれる。主人公はジェノヴァ出身のイタリア人、アントニオ・デル・カレット。この戦いの直前にロードスに赴任してきた弱冠二十歳の騎士だ。読者はアントニオとともにロードス島の戦いを体験することになる。

 この作品は『コンスタンチノープルの陥落』『レパントの海戦』とともに塩野七生の「地中海三部作」といわれる。いつも思うのだが、著者独特の淡々とした語り口は全く戦争小説っぽくない。擬音語が殆ど使われておらず、セリフもごく少ない。「バーン!」「危ない!!」「ドスン」「キャーー!」こんな表現には決してお目にかからない。直接的な意味で迫力に欠けるといえよう。しかし一方で、まわりの風景や情景、建物や自然の様子が丁寧に丹念に描かれている。その結果、まるでその場にいるような、登場人物と同じ空気を吸っているような気持ちになってくる。迫力には欠けるが、ものすごく臨場感があるのだ。また、そこ語られる内容が奥深い。実は膨大な資料にあたったのだろう、当時の築城技術や大砲の技術、ヨーロッパ諸国の置かれた状況などについて、実に分かりやすく伝えてくれる。おかげで読者はいつの間にか登場人物たちをとりまく環境のさまざまを知る事情通になっている。だから作中の出来事の一つ一つが実にリアルに感じられるようになってしまう。ドップリ浸りきってじっくり楽しむ。そんな一冊だ。

ロードス島攻防記 (新潮文庫)
作者: 塩野 七生
メーカー/出版社: 新潮社
ジャンル: 和書