『間違いの喜劇』


 瓜二つの二人、他人はもちろん、親族や配偶者でさえ見分けるのに苦労するくらい何から何までソックリの双子がいたら、そりゃぁヤヤコシイだろう。まして二組4人の双子がいたとしたら大混乱だ。シェイクスピアの『間違いの喜劇』を読んだ。タイトルにある「間違い」とは双子を取り違えるコト。双子の取り違えが生む喜劇だ。

 主人公のアンティフォラスとその召使いドローミオはエフェサスの町にやってきた。この町には二人が生まれて間もなく生き別れになった、それぞれの双子の兄が住んでいることを二人は知らない。生き別れの兄達はこの二人同様、主人と召使の関係にある。二組の双子はどちらもそっくりで、周りの人々は二人をこの町に住む兄と間違える。アンティフォラスの兄はこの町で結婚しているのだが、奥さんも間違える。同様に本人たちも間違える。主人は召使を間違え、召使は主人を間違えるのだからもう大変だ。

 物語の落ちとして双子落ちというのは夢落ちと同様、基本的にNGだ。推理小説のトリックが双子だったりしたら、もう「金返せ!」と言いたくなる。でも、そのトリックが分かっていて、皆が驚いたり怒ったり、悲しんだりしているのをコッソリ見ていたら、そりゃぁ結構面白い。君がさっき話してたのは弟の方だよ!バカ、それは兄さんだってば・・・・。この戯曲はそんな楽しみを観客に与えてくれる。舞台の上で皆が混乱すればするほど、観客は笑いころげるのだ。しかしこの手の面白さ、度が過ぎると飽きてくる。頃合が大切なのだが、『間違いの喜劇』はシェイクスピアの最も短い喜劇だそうだ。さすが天才。

間違いの喜劇 (白水Uブックス (5))
作者: ウィリアム・シェイクスピア
メーカー/出版社: 白水社
ジャンル: 和書