『さまよう刃』


 会社員の長峰重樹は高校生になったばかりの娘を殺された。5年前に妻を亡くし、愛する娘も失った。打ちひしがれ、絶望の淵にいる長峰のもとに、未だ捕まっていない犯人の所在を告げる電話がかかる。半信半疑ながらも告げられた住所を訪ねた長峰は衝撃の事実を目にし、復讐の鬼と化す。東野圭吾が2004年に発表した長編は娘を殺された父親による復讐劇・・・・まるで西村寿行の世界だが、ハードボイルド・アクションではない。長峰は犯人への怒りの炎を青白く燃やしながら、一人淡々と犯人を追う。犯人、長峰、二人を追う警察たち。息が詰まりそうな逃走劇は鮮烈なラストシーンへとつながる・・・・。

 グイグイと引きこまれ、一日で読みきった。犯罪の被害者家族のいたたまれない気持ちが伝わってきて、長峰に深く共感してしまう。そしてこの作品は重く深いテーマを読者に突きつける。犯人は18歳の少年。逮捕、起訴されても裁判では情状酌量、執行猶予となる可能性さえある。法とは何か、更正とは何か、そして誰のための警察なのかを考えさせられる。

 更正とは罪を犯した人間が反省し、心を入れ替えてまっとうな人生を歩みはじめることだ。そのチャンスを奪わないため、少年は犯罪を犯しても重く罰せられない。法律により守られている。ほんの出来心、興味本位、若気の至り、これらに対し寛大なわけだ。しかし一方で確信犯をも許してしまうことになる。人が人を裁くことの難しさは避けて通れないことだが、悪い事をしてもよいと思う、悪い事を悪い事と思わない、こんな人間が増えるのはどう考えても良くはない。母親がいたずら息子に言う。「そんな悪さをすると、おまわりさんに刑務所に入れてもらいますよ」すると小学生の息子が「コドモは少年法で守られてるんだよー」こんな世の中にはしたくないよなぁと思う。

 本作が映画化されて、ちょうど今ロードショー中だ。主役の長峰を寺尾聡、長峰を追う刑事を竹野内豊伊藤四朗が演じる。渋くて味のある良いキャスティングだと思う。長峰が宿をとるペンションの娘、和佳子は長峰に深く共感しつつも自首を進めるという役柄。これを演じる酒井美紀はどんな演技をするのだろうか。とても興味があるので、機会があれば観てみよう。

さまよう刃 (角川文庫)
さまよう刃 (角川文庫)
作者: 東野 圭吾
メーカー/出版社: 角川グループパブリッシング
ジャンル: 和書