『アトランティス・ミステリー』


アトランティス・ミステリー』庄子大亮
今から1万2000年前、アトランティス大陸ジブラルタル海峡の西側の大西洋に浮かんでいた。豊かな資源と強力な軍事力をもち栄華を極めたが、奢り高ぶった結果ゼウスの怒りをかい一昼夜のうちに海に沈んで跡形もなくなったという。誰もが一度は耳にしたアトランティス伝説を最初に伝えたのは紀元前427年生まれの哲学者プラトン、知らなかった。

 『ティマイオス』と『クリティアス』という二つの著作の中でプラトンアトランティスに言及しているそうだ。もちろんプラトンの時代にアトランティスが存在していたわけではなく、はるか昔の話として紹介されている。すなわち少なくともプラトンの頃から現代までずーっとアトランティスは「謎」であり続け、様々な憶測と諸説が入り乱れた。本書で紹介されているだけでも大西洋実在説、クレタ島説、アイルランド説、南極説などがあるのだが、どれも決め手を欠いていて決着がつかない。

 著者の庄子大亮は西洋史が専門の歴史学者。まえがきに本書は堅苦しい歴史学の本ではないと書いてあるとおり、平易な言葉でわかりやすい内容だ。しかしあくまで学者らしく上記の諸説を一通り概説し、それぞれの問題点を指摘した上で、自身の考えを明確に示している。着眼点はプラトンが『ティマイオス』や『クリティアス』を書いた意図と背景。そこに切り込んで出した結論は非常に納得のいくものだった。

 タイムマシンが発明されるまで、歴史には謎がつきものだ。この手の謎に対し「アトランティスはぜーったい大西洋に眠ってる!」などと根拠なしに決め込むことができるのが素人歴史ファンの特権だ。自説に合った本を見つけたら「この本にも書いてある」と喜び、違う説には「あの本は嘘だ」と決め付ける。まぁそんなもんだろう。しかしそんな素人をアンフェアな手法で煽るトンデモ本はいただけない。全く勝手なものだが、書く方はあくまで真剣に、アカデミックかつ大胆な理論を展開してもらわなければ困る。その意味で本書は全くフェアでありアカデミック、そして大胆だから面白かった。しかし、庄子説を採るか否かは読者に任せられていることは言うまでもない。

アトランティス・ミステリー (PHP新書)
作者: 庄子大亮
出版社/メーカー: PHP研究所
発売日: 2009/11/17
メディア: 新書