『レアメタル超入門』


レアメタル超入門』 現代の山師が挑む魑魅魍魎の世界 中村繁夫
 レアメタルという言葉を最近よく耳にする。この本の序章によると、市場に流通する金属の95%は鉄で、残り5%のうちで、銅、鉛、亜鉛など、年間100万トン以上の需要のある金属を除いたものをレアメタルというそうだ。具体的にはニッケル、コバルト、タングステンインジウムなど。ハイテク産業で必要な電子部品に使われ、需要は年々増加するのだけれど供給が追いつかない。なぜならそれらが中国、アフリカ、南米など限られた所でしか産出しないからだ。本書では注目を集めるレアメタルの状況、世界各地での資源ナショナリズムの風潮、そしてこの業界の内情が生々しく描かれる。日本は世界一のレアメタル輸入国であり消費国なのだけれど、そのほぼ100%を輸入に頼っている。そんな日本の資源政策に対して、物申す、と言う本だ。

 著者の中村繁夫は日本初のレアメタルの専門商社の社長。タングステンの商売では負け知らずだという。世界には多くのレアメタルのトレーダーがいるが、レアメタルとそれを商う人間との間には不思議な相性があるそうだ。コバルトに強い人間もいればチタンと合うひともいる。著者の場合はそれがタングステンなのだ。そんなレアメタルのトレーダーと相容れないのがヘッジ・ファンドの世界。価格が変動するものなら何にでも手をだすヘッジファンド。彼らには商品に対する「愛とロマン」そして「哲学」がないという。著者によると2008年の世界金融同時破綻は、金融工学の計算式だけで愛と哲学が欠如した「浅知恵」が引き起こした人災なのだそうだ。

 商社マンの端くれとして思うが、自分が扱う商品への愛やロマンは大切だ。そしてそれのない商売というのは何とも味気なくつまらない。産業革命以降、人間は身の丈をはるかに越える力を手にしてきた。原子力などその最たるものだが、大きな力を手にしながら愛とロマンそして哲学が欠如していたら、ただの商売がとてつもない人災を及ぼすことになる。愛とロマンがあるから商売は面白く、哲学があるから商人の存在価値がある。そんな事を再認識させてくれた一冊。面白かった。

レアメタル超入門 (幻冬舎新書)
作者: 中村繁夫
出版社/メーカー: 幻冬舎
発売日: 2009/05/27
メディア: 新書