『営業の見える化』


 「営業は見えない」とよく言われる。営業以外の職種の多くは、ボスの目の届くところで仕事をするのだが、営業はそうではない。会社を出たら何をしているか分からない、だから「営業は見えない」という。サボっている事も見えないし、あの人があんなに売れる秘密も見えない。さて、「見える化」と言えばトヨタ生産方式だ。数値化や一般化が難しいがため、気にかけてこなかった事柄をシッカリ見えるようにする事で、様々な手を打てるようになる。製造の現場でムダを減らすための武器となる。この武器を営業という極めて属人的な職種に転用しようという試みがこの本。

 本書では営業の「プロセス」「ストーリー」「登場人物」を見える化する。そのための提案は「スケジュールのIT化」、「標準プロセスとマニュアル」、「ロープレ」、そして「見える化日報」。この「見える化日報」というのが著者のオリジナルなのだろう、本書の1/3はこの「見える化日報」が大活躍する。なるほど、この日報は興味深い。詳しくは書かぬが、事実の報告以外に自分の推察を交えて書くあたり、若手の育成にも使えそうだ。

 しかし、全体としては今ひとつだなぁ・・・。著者の長尾一洋氏はコンサルタント会社の社長。経営コンサルタント会社勤務の後独立なさったそうだ。この本は「見える化」を推し進めるのが趣旨のはずだが、どうしても「営業強化」的方向で話を進めてしまっている。「初回訪問のときに見るべきこと」「顧客の言うことを鵜呑みにするな、頭の中を探れ!」などの項目は、「営業強化」としては重要な事だけれど、「見える化」とは関係ない。コンサルタントを生業としている以上、そう言いたくなる気持ちはよくわかるが、もう少しストイックに「見える化」の推進に絞って欲しかった。出版社の担当は先読みして、コントロールできなかったのだろうか、疑問だ。結果、上記の「見える化日報」を自画自賛しているだけ、という印象を与える。

 自分自身、営業部門でマネージャーの端くれとして日々悪戦苦闘しているが、確かに営業は見えない。実際はサボっていたとしても「頑張りましたが、ダメでした」と言われたら、仕方ないなと思ってしまう。努力不足があったにせよ、悔しい気持ちはよく分かるから。逆に結果だけだと、その背後にどんな努力があったとしても見えてこない。そんな営業をマネジメントする上での最終防衛ラインは「やる気」と「健康」。これだけは見ていなければならない。このどちらかが欠けると営業は機能しなくなる。逆に、この二つが揃っていて、会社がそこそこシッカリしていれば、営業は自ら走る。走らずにはいられない。営業とはそういう生き物だと思う。トヨタ生産方式で言うところの「人偏のついた自動化=自働化」だ。ただ、「やる気」と「健康」はあくまで最終防衛ライン。成果を上げ収益を高めるため、何とか手を打ちたいと思う。この手の本を購入してしまうのも、そんなところからだ。

営業の見える化
作者: 長尾一洋
メーカー/出版社: 中経出版
発売日: 2009/10/09
ジャンル: 和書