『日本を滅ぼす「自分バカ」』


 「自分らしく生きる」「自分らしくがんばりたい」「自分のスタイルを貫けてよかった・・・・」TVのインタビューでは定番の答えだが、耳にするたびに違和感を感じていた。自分らしければそれで良いのかい?そもそも自分らしさって一体何?

 男らしさ、女らしさ、日本人らしさ、人間らしさ。「らしさ」というのはイロイロあるが、それぞれ男は、女は、日本人は、人間はこうあるべき、こうありたい、といった規範に基づく行動様式があった、しかし昨今の「自分らしさ」には規範も行動様式もない、『各々の勝手などんづまりの個人概念だ』とこの本は語る。『自分の怠惰、無作法、無知、卑怯愚劣に開き直り、口先だけでそんなざらついた表情を糊塗しようとする言い訳に使われてはいないか』と問いかける。そうそう、その通り!思わず拍手していた。そして『現在の日本人の精神が、マスコミの浮ついた言葉とテレビの軽薄な映像と世間の稚拙な流行によって上げ底になっている』そしてその結果が「自分らしさ」を「らしさ」の頂点とする自己肯定なのだ。『「自分がある人」は自分を離すことができる、「自分がない人」ほど、自分に執着する』大いに納得。溜飲が下がるとはこういうことか。非常にスッキリした。

 それにしても熱い本だ。「自分」に酔いしれる現代日本の風潮を激しく批判する、全七章の新書版275ページ。第一章から順に「自分らしさ」とは何か、日本人の「自分」は脆い、日本列島の温室育ち、世界の中心で「自分」を叫ぶ、こんな「自分」に誰がした、自分病は治癒できるのか、と続き、最後の第七章が、簡素な生活高潔な思想、という構成になっている。豊富な事例と引用を駆使する、説得力ある文章は見事なのだが、著者の視点も主張も言葉のトーンもずーっと同じで、構成も何もあったものじゃない。文章のテンションも高止まりなので、読んでいて著者の熱気にあてられる。いやぁ参りました。

 著者の勢古浩爾は1947年生まれ。ズバリ団塊の世代だ。うーん、いるよな、こういうおじさん。次から次へと問題を指摘し、批判の言葉がポンポン飛び出す。言葉の木刀でめった打ちにされる感覚だ。でも、言ってることは結構正しい。この本もそうだ。ありがたいご意見番の言葉に耳を傾けたい。でも、頼むから耳を傾けて欲しいと思う相手はこういう本を買わないんだよなぁ。この本を読んだ心ある人が、勢古浩爾に成り代わり、そこかしこで熱く語るしかあるまい。

日本を滅ぼす「自分バカ」 (PHP新書)
作者: 勢古浩爾
メーカー/出版社: PHP研究所
発売日: 2009/04/16
ジャンル: 和書