days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

"L.A. Confidential" on Blu-ray Disc


私の大好きな映画『L.A.コンフィデンシャル』との再会は、最高に近い形でした。
ハイビジョン・リマスターされた画質も音質も、かなり上等な部類でしょう。
実は購入当日にグミさんのblogを見たら、ちょっとびっくり。
慌てて居間のKUROで冒頭部分を再生したところ、ワーナーブラザースのロゴ、製作会社リージェンシー・エンタープライズのロゴ、ダニー・デヴィートのナレーションをバックにしたタイトルバックと、かなりボケボケでちょっとショックでした。


しかし冒頭過ぎると、これがかなりの高画質。
140インチ、三管の組み合わせでは最高でした。
輪郭も含めて全く強調感の無い、自然でフィルムライクな画質。
大画面映えがします。
逆に言えば最新の映画Blu-rayとは違う画調でもあります。
色もコントラストも劇場公開時の感動が蘇ってくるよう。
マイケル・マン作品で御馴染みの名手ダンテ・スピノッティの撮影は、今観ても美しいですね。
プロダクション・デザインも含めて、映像設計もモダンな感じ。
1950年代ロサンジェルスが舞台とあって、もっと懐古調の雰囲気かと思っていたら、全然違っていたので初見は少々驚いたものです。


公開当時に書いたレヴューを読み直すと、相当熱く語っているのが自分でも分かりますが、何度見直してもこれは大傑作。
カーティス・ハンソンブライアン・ヘルゲランドによる、緻密に組み立てられた脚本は良く出来ていますね。
原作の解体→再構築がこれほど上手く行っている脚色は相当に珍しいですよ。
各場面は同じものがあっても物語自体はかなり(というか殆ど)違うし、登場人物の設定も違う。
でも紛れも無い小説の映画化になっているのですから。
ジェイムズ・エルロイによる原作は、作者本人曰く「私の傑作だ」だそうですが、私としては原作よりも映画の方が好きです。
原作の『暗黒のLA四部作』は第1部『ブラック・ダリア』と第3部の本作が映画化されていますが、最高傑作の第2部『ビッグ・ノーウェア』を誰か映画化してくれないものでしょうか。
同作の主人公3人の内、1番大活躍するバズ・ミークスが、本作映画版では小物悪党扱いになっていますが、スクリーン上で活躍するバズも観てみたいものです。
そういえば第4部『ホワイト・ジャズ』の映画化、ロバート・リチャードソン初監督、ジョージ・クルーニー主演の企画はどうなったんでしょうか。



役者も豪華ですよね。
刑事になりたかった動機を尋ねられ、言葉に窮するケヴィン・スペイシー

軽快でナルシスティックな感じがとても良かった。


この後、大スターへの道を歩み出すラッセル・クロウ

原作でのバド・ホワイトは大男として描写されています。


出世の鬼エドガイ・ピアース

原作では卑怯者でもっと冷酷、打算的な役どころなのですが、映画版ではかなり改変されています。
彼の好演もあって、感情移入出きる役でした。


リン役キム・ベイシンガー

柔らかく金髪をふちどる照明もまた、美しさを引き立てていますね。


画像は載せていませんが、ご贔屓のデヴィッド・ストラザーンも怪しげで良かったです。
ハンソン作品では、『激流』に続いての出演です。


音響にも触れておきましょう。
台詞も明快だし文句無し。
はい、これも劇場公開時に圧倒された迫力満点の銃撃音が再現されています。
サラウンド感はほどほどですが、男たちの情念や怒りが込められた銃撃とばかりに、重々しい。
ジェリー・ゴールドスミスの音楽も見事ですしね。
彼の音楽が劇中で初登場するのが、「血のバレンタイン事件」の始まり。
酔って怒りにかられた刑事達が、地下留置場に向かう映像で不穏なリズムが刻まれ出します。
そしてどす黒い鳴りを奏でる金管が、緊張を盛り上げます。
やがて一瞬の音楽静止の後、金切り声を叫ぶヴァイオリンと強烈な打楽器による暴力沙汰が始まります。
必要な箇所に音楽を使うという、映画音楽の使い方を分かっている監督とのコラボレーションが生んだ、素晴らしい場面ですね。


CDは持っているのですが、全体に強烈なアクション/サスペンス・サウンドが多いので、聴き易いアルバムではありません。
しかし随所に挟み込まれるドライなハードボイルドの響きと情感は聞き逃せません。
特に誰もが印象的に思えるのがラストでしょう。
美しい弦の旋律と金管から始まり、リズムが開始されて別れの場面を盛り上げます。
するりと入り込むホルンの調べ。
原作のラストはもっと物悲しく、また同時にジェイムズ・エルロイ(と、翻訳者)が書いた最高に美しい文章で締められますが、それとは全く違った印象を与えます。
でもこの映画版では、それで正解でしょう。
冒頭のみならず、途中で命を落とした者たちへの鎮魂歌的な小説版と違って、未来を向いているのが映画版だから、と解釈しました。


因みに小説版のラストはこうなっています。

エドは、ガラス越しに手を合わせた。掌の大きさはバドの半分しかない。車が動き出した−手と手を合わせたまま、エドもいっしょに走った。車は車道に出て、さよならのクラクションを鳴らした。
金の星。残されたのは、死者たちだけ。


特典ディスクでは、何とキャンセルされたテレビシリーズ版のパイロット版も収録されています。
パイロット版だけ作られたそうですが、主演はキーファー・サザーランド
これは後日見てみましょう。
番組の存在自体、全く知りませんでした。


カーティス・ハンソンによる音声解説もあるし、特典も多数収録のよう。
これからしゃぶり尽くしたいディスクです。


L.A.CONFIDENTIAL-ブルーレイ・エディション- [Blu-ray]

L.A.CONFIDENTIAL-ブルーレイ・エディション- [Blu-ray]


この映画がお好きな方ならば、必携です。



暗黒のLAはここから始まりました。

ブラック・ダリア (文春文庫)

ブラック・ダリア (文春文庫)

映画は残念ながら凡作でしたが、小説も構成に難あり。
でもドロドロしたもので読ませてしまいます。


大傑作の第2部。

ビッグ・ノーウェア〈上〉 (文春文庫)

ビッグ・ノーウェア〈上〉 (文春文庫)

ビッグ・ノーウェア〈下〉 (文春文庫)

ビッグ・ノーウェア〈下〉 (文春文庫)

劇中のとある人物が起こす行動が超ショッキングで、未だに脳裏に焼き付いています。
そしてシリーズ中、もっとも重いラスト。
物語が直接繋がるようになるのは、この第2部からになります。


第3部はこちら。

LAコンフィデンシャル〈上〉 (文春文庫)

LAコンフィデンシャル〈上〉 (文春文庫)

LAコンフィデンシャル〈下〉 (文春文庫)

LAコンフィデンシャル〈下〉 (文春文庫)

第2部のラストから繋がっています。
文体もスラッシュ(/)の多用が目立ち、変わって来ました。


怒涛の第4部。

ホワイト・ジャズ (文春文庫)

ホワイト・ジャズ (文春文庫)

文体も内容も難解になって来ました。
特に文体は前作よりもエスカレート。
ハードでドライなリズムを刻みます。
物語は終焉を迎えます。


ゴールドスミスの傑作スコアもどうぞ。

オリジナル・サウンドトラック「L.A.コンフィデンシャル」

オリジナル・サウンドトラック「L.A.コンフィデンシャル」