days of cinema, music and food

徒然なるままに、食い・映画などの情報を書いていきます。分館の映画レビュー専門ブログhttp://d.hatena.ne.jp/horkals/もあります。

Fair Game


プレイム事件を映画化した『フェア・ゲーム』を鑑賞しました。
地味な題材なのに、公開2週目の日曜11時40分からの回、デジタル上映の105席の劇場は半分の入り。
高評価故でしょうか?
こういう映画がそこそこ集客があるのはちと嬉しかったです。
タイトルは「いいカモ」「格好の標的」の意味です。


夫と2人の子供と一緒に幸せに暮らす会社員、ヴァレリー・プレイム(ナオミ・ワッツ)の正体は、出張と偽って世界各国で活動するCIAの秘密工作員でした。
2001年、プレイムは上層部の指令によりイラクでの核兵器開発に関する調査を行い、シロと報告します。
一方、彼女の夫である元大使ジョー・ウィルソン(ショーン・ペン)も、CIAの派遣によりニジェールに飛び、イラクとのウラン売買を調査、同じく売買は無いと報告します。
しかし時のブッシュ政権イラクへの戦争を起こしたいが為に2人の報告を無視し、やがて開戦に踏み切ります。
アメリカ軍はイラク大量破壊兵器を探しますが、当然ながら見つかりませんでした。
2003年7月、ニューヨーク・タイムズ紙で、イラクの核開発についての情報が捻じ曲げられていると反論したウィルソンへの報復として、ディック・チェイニー副大統領の側近ルイス・リビーが、プレイムの正体が工作員であるとマスコミにリークしてします。
プレイムは一切の活動が出来なくなり、夫妻はマスコミに追い掛けられだけではなく、匿名の脅迫を受けるようになり、生命や結婚の危機に瀕してしまうのですが…。


この事件は、個人的興味もあってそこそこ知っていたのですが、映画は扇情的にならずに夫婦の葛藤を主軸において、成功していました。
映画や小説では冷徹な組織として登場するCIA。
本作ではCIAだけではなく政界そのものが冷徹とされていて、ワシントンD.C.をタフな世界として描写しています。
巨大な権力を持ったシステム内において、主人公が世界各国で秘密工作を働く描写は興味津々だし、やがてその巨大権力によって潰されそうなる様もスリリング。
一方で後半は夫婦のドラマも掘り下げていて、実際、映画はスリラーとして成立しているものの、1組の夫婦の葛藤に焦点を絞った脚色の勝利でしょう。
勢いのあるキャメラワークも含めて、演出は歯切れ良い。
これは撮影監督も兼ねたダグ・リーマン監督の快作です。
ボーン・アイデンティティー』『Mr.&Mrs.スミス』といったヒット作を放っている、ひょっとして彼の最高作ではないでしょうか。
それでも、本作1番の見ものは、小皺も美しいナオミ・ワッツと、役作りか太っ腹になったショーン・ペンの演技となっています。


ワッツは思慮深く精神的にも成熟した強い女性を凛々しく演じていますが、決してアンドロイドのようになる事なく、血肉の通った役としていてさすが。
彼女の代表作の1つに数えても良いのではないでしょうか。
しかしヴァレリーが現地で説得工作をする時、彼女の同情に満ちた眼差しは単純に本心ではなく、任務を全うする為の手段ではないか、と思わせる瞬間もあります。
そうして一筋縄では行かない役であると観客に思い出させるのです。
しかし彼女が善き家庭人となるべく努力しているのも確かであるとも演じており、観客の感情移入を促せる役どころにしていました。


ペンは元々攻撃的な役が得意であり、本作もその延長上にあると言えます。
やられたらやり返せの信念の持ち主であり、TVやマスコミに登場して次々と反論して行きます。
ここら辺はさすがに慣れたもの。
どちらかと言うとワッツの引き立て役ではありますが、妻の不在時に家庭を預かる善き家庭人としての優しさや包容力も見せて、上手い。


プレイムの父役サム・シェパードも出番は少ないものの印象的でした。
ブルース・マッギルノア・エメリッヒ等、ヴェテラン、中堅どころも皆上手い。
しかしCIAという組織は非常に優秀という印象があるのに、こういう映画を観るとやはり個々人の意識やスキルの差も大きく、巨大な組織だからこそ必ずしも優秀とは限らないのだな、という当たり前の事を思いました。
そういう意味でもリアルな映画でした。


エンドクレジットの墨塗りの役名で、これがCIA検閲済みの原作ノンフィクションの映画化と思い出しました。
お薦めの佳作です。


尚、撮影機材はHDのレッド・ワン。
DLPデジタル上映との相性は抜群でした。
こういうのを観ると、フルデジタル・プロジェクターは良いなぁ…と思ってしまいます (^^;