ヒューイ&デューイの日記(私見運用版) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2014-09-24

[]新紀元社「自動車模型の楽しみ方 エンジニアリングとエモーション」

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モデルアート、モデルカーズ誌などに連載記事をもたれるベテランのカーモデラー、北澤志朗氏による模型製作ガイドブックです。プラモデル作りのための参考書籍はあらゆるジャンルに存在しますが、他に例を見ないような切り口で非常に興味深い内容。


いささか反則かな…と思いつつ、まずは著者ご本人による解説にリンクしてみます。そちらには目次が掲載されているので大まかな内容を知ることが出来るかと。そして、

模型の本でこれだけ字を読ませる本ってのはかなり珍しいでしょうねえ。

と言われるように、文字すなわち言葉を主にして作られた模型の本です。読み応えのある内容であり、読んでいて実に考えさせられるものでした。「考えるな、感じるんだ」とは不世出の名優ブルース・リーの名言ですが、時には「感じるな、考えるんだ」が重要な場面もあります。そういう感じで模型作りの「理」を解いた本と言えば良いかな…?では「理屈っぽい本」なのかといえばそんな事はないのですけれど。


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副題には「エンジニアリングとエモーション」とあります。実物の自動車に見られる「技術」を再現するのか、あるいは実物の自動車から受ける「感情」を形にするのか、どちらも模型の在り方としては同じぐらいに重要なことで、ではどちらを重視するべきなのか。読者に対する二者択一的な問いかけは本書のさまざまなページに於いて発せられます。そして提示される答えは常に「どちらでもよい」、大事なのは作り手である読者自身がどうあるべきかを自分で決めること、そのためのバランスであると。二択がすなわち○×ではないのですね。両方狙ったって良いし、なんなら真ん中を進んでもよいのだろうなあ。そういうことを考えながら読み進めるのは実に楽しいことで、まさしくマクガイバー的な読書であります(何)


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趣味として仕事として、長く業界に携わって来た方ならではの視点でカーモデルの歴史や現状、製品の種類とそれぞれの特性などが幅広く解説されています。公正な視点と落ち着いた筆致は成熟した大人の趣味としての模型の在りかたを示すものでしょう。むろん具体的な製作と技法についても述べられておりますが、そこでもやはり読者に示されるのは、多くの選択肢とそれを好きに選ぶ自由度の高さです。ひとつひとつの技法、制作プロセスについて「何故それをやるのか」「何のために行うのか」が丁寧に言葉で語られるからこそ、読者自らが考えて選ぶことが出来るわけでして、それぞれの「理由」を述べるタイプの指南書と言えましょうか。


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稀に模型製作本の中には「せねばならない」「これが正解」を提示するものもありますが(それが悪いとも言えませんが)、常に正解は読者の側に渡されます。素組みから自作による改造、フルスクラッチまでの様々な階梯で、何をするかを選ぶのは読者次第。そのためにはどんな技法があり、どうすれば作品に反映できるのか、それを説明するのが著者の立場。大事なのはいつもバランス。流れとしてはそういうかたちです。


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そういう意味では極めて「作る人」に向けた本ではあります。美しく仕上げられた自動車模型は時としてただ鑑賞するだけでも十分に楽しめるものですが、本書に関しては実際に手を動かす立場でないとその内容を存分に受け取ることは出来ないかも知れません。その代わり模型を作る人ならば、カーモデラーならずともあらゆるジャンルのモデラー諸氏に響く内容や言葉が並んでいるように思われます。


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例えばメタリック塗装の技法などはカーモデルの分野がいちばん進んでいるものでしょう。美しく丁寧に仕上げるコツはガンプラなどのSFモデルに反映できるものですし、あるいは美少女フィギュアでもコスチュームの一部をメタリックにすればいろいろバンザイなものもあります。模型を美しく仕上げることはさりげなくリビングに置いて家族の理解を得るためにも大事なのですと、そのようなことも説かれています。しかし美しいメタリック塗装で仕上げられたビキニ水着の美少女フィギュアリビングに置いても、家族の理解を得ることは難しいだろうなァ……


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その上で作品の保管や「仲間」を作ること、長く模型を趣味として続けることの、製作技術よりももっと重要なことについてもページが設けられています。模型製作は時に孤独な作業に陥りがちでもありますけれど、それを「楽しむ」ためには人との繋がりを大切にし、物を大事に扱う態度がが欠かせません。趣味の世界には義務も責任もないので人それぞれの個性、ひととなりというものが如実に顕れる場でもあります。だからこそ、楽しいことはそれが長続き出来るように接していくべきなのでしょう。タイトルにもある通りこの本は「楽しみ方」についての本なのですね。


※実は先週扱った「松本州平のヒコーキ模型道楽」と対照的な内容を示そうとこの本を選んだのですが、記述内容は対照的でも結論としてはほぼ同じことを提示しているかのようです。ジャンルの違いに関わらず、それこそガンプラであっても「模型の国の住人」って同じ地面に暮らしているんでしょうねえ。


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「リアル」という概念についてもいろいろと考えさせられます。写実主義表現主義のふたつの観点から、これはスミ入れに関する手法を解説している項目。敢えて「主義」に立つのは考え方としてはこれまた重要なことでありまして、模型に於ける「リアル」は「リアリティ」と形容詞で語られることが多いのですが、実際のところは「リアリズム」の問題、作った本人がどう捉えているかという主義の範疇に属する事柄だったりするもので、さらに言ってしまえばスタイルの問題だったりもします。常に大事なのは自分がどうしたいか、どうすれば楽しいか、そういうことですね。


写実主義表現主義」という言葉をキーにして本書の記述から離れてやや脱線してしまいますと、美術館に足を運び、特に絵画を鑑賞することはモデラーにとって貴重な経験を得られるだろうと思われます。写実主義とは現実を正確に写しとったものではありませんし、表現主義というのはむしろ人間の身体感覚に忠実だったりもします。極論すればどれほど模型を「リアル」に近づけても模型は現実にはなりませんから、非現実的な美術品に溢れた美術館って「模型のリアル」を考えるには良い場所なのです。うっかり現代美術館に出かけてシュールレアリズムに目覚めたとしても、それはそれでひとつの正解なのでしょう。


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ことスケールモデルの分野では「ディフォルメ」を忌避する向きもあるでしょう。しかし外観が実物と正確に相似していればそれだけで「リアル」だと言えるものなんだろうか?そんなことを考えたりもします。あんまり小難しいこと考えるより手を動かしたほうが良いには決まっているのですが、人間時には立ち止まって考えることも必要だって荒巻部長もゆってる。


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とまあ、実に考えさせられ納得する記述の多い本でした。模型の本を読んで哲学的(なんてことを軽々しく書くと哲学やってるひとに怒られるんですが)なことを考えるのはなかなかに楽しく、趣味と自分の在り方についても思いを馳せる、そんな内容でもある。ただひとつ、この点だけは納得出来かねることが本書の冒頭部分にはありました。自動車モデラーは他のジャンルと比べて実際に実物を手に入れられる、所有できるという妄想を楽しめると、おおむねそのようなことが書いてある。


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ちょっとまってください


なるほどね、確かに戦車モデラーガンプラモデラーが戦車やモビルスーツを所有できるかと言ったらそう簡単ではない、そんな妄想はすててしまへ。そんなもんよりランボルギーニ・イオタを手に入れるほうがずっと簡単でしょう。

でもね、

美少女フィギュアはいつか現実のヨメになると、わたしはそういう妄想を抱いて生きている。大事なのは個人のバランスだ。

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