今週の“HARDtalk”:ハマスとファタハの大連立について

 BBCのロングランなインタビュー番組“HARDtalk”。
 BBCワールドニュースの日本語放送でも観れる、辛口インタビュー番組で、むしろマン・ツー・マンのディベートって感じの番組です。
 30分枠、普段は、月〜木の日替わりプログラムとして放映。当たり外れもあるけど、平均点は高いと思います。


 今週、月曜日のBBC WORLDは、「U.S.軍特殊部隊、パキスタンでウサマ・ビン・ラディンを殺害」のBREAKING NEWS(速報)や、関連報道を続々流して。
 “HARDtalk”は多分、お休みになったと思います。少なくとも、日本局の放送枠は、全部BREAKING NEWSに使われてたはず。


 で、火〜木の放送枠では、以下のような人たちをインタビュー相手にした番組が放送されました。

  • 3日(火):U.K.の作家で元教師、“War Horse”などの著者、ミカエル・モープァゴ(Michael Morpurgo)。
  • 4日(水):ウサマ・ビン・ラディン殺害について、U.K.、パキスタン、U.S.の安全保障経験者に訊く。U.K.陸軍(British Army)元総司令マイク・ジャクソン(Sir Mike Jackson)、パキスタン情報局の元局長アサド・ディラニ(Asad Durrani)、U.S.副大統領の顧問だったディヴッド・ウルムサ(David Warmser)。
  • 5日(木):ハマスの外交官で、副外相相当のガジ・ハマド(Ghazi Hamad)。

 今週放送分の番組は、いずれも番組メイン・キャスターのスティーフェン・サッカー(Stephen Sackur)がインタビュアー。


 3日放送分、ミカエル・モープァゴ氏(Michael Morpurgo)氏へのインタビューは、確か再放送。


 やっぱり、ビン・ラディン殺害の報に接して、急遽4日分放送とか準備したのかしらね(??)。

 実際はどうかはわかんないですけど。4日には、U.K.、パキスタン、U.S.の、国家安全保障に関わったことのある大物相手に3元インタビューを迅速に放送しちゃう体制は、BBC WORLDすごいわね。

 これ、国家安全保障に関わった「ことのある」経験者3名ってとこがミソよね。現役の人だと、急遽は応じてもらえないでしょうし。その分、「経験者」だから訊ける質問もあるって感じ。

 画像ファイルで観れるのは、番組冒頭、パキスタンの元情報局長って人(アサド・ドラニ氏)が「パキスタン政府は、米軍特殊部隊の作戦がいつ行なわれるかは知らなかっただろうけど、側面から支援した可能性はある」みたいなことを言ってるとこ。
 もうちょっと微妙さを含めた、遠まわしな言い方だけど。「パキスタン政府が、作戦実行を、まったく知らなかったとは考えづらい」って意味のことを、パキスタン情報局の元局長って人が示唆的だけど言ってます。


 5日放送分の、ハマスの外交官ガジ・ハマド氏(Ghazi Hamad)へのインタビューは、ある意味かなり“HARD talk”らしいプログラムだった。
 スティーフェン・サッカー、眉間に深い皺寄せながら、粘り腰で質問重ねる重ねる(笑)。

 5日放送分コンテンツの見出し“The West 'misunderstands' Hamas”(欧米諸国はハマスを誤解している)は、もちろんガジ・ハマド氏の言い分。
 画像ファイルで観れるあたりでも、ハマド氏は、概略「ハマスは諸国との人道的な交流を求めてる。欧米(west)には、ハマスのイメージについて誤解がある」とか言ってます。
 スティーフェン・サッカーは、そんなハマド氏に「誤解なのでしょうか?」って線での質問を色んな角度から重ねてく。


 インタビューの糸口は、エジプトの暫定政権の仲介で、電撃的に発表された、ハマスファタハの和解合意と暫定政府結成。
 ガジ・ハマド氏、今回の和解合意は、過去4年間のファタハとの交渉の結果で、決してたまたまこの時期になされたわけではない、とか言うんですけど。

 これは疑わしいですよね。
 まず、今回、の若い合意はエジプトの暫定政権が仲介したことは周知だけど、旧ムバラク政権だったら、こんな仲介したとは思えない。

 それに、なぜか日本語のメディアでは、あまり報じられてないんですけど、このとこ、ガザ地区(ガザ・ストリップ)でも、一般民衆がハマス政権に批判デモしてます。シス・ヨルダン(ヨルダン川西岸地域)でも、パレスチナ人大衆のファタハ批判はある。
 それやこれやの、電撃的和解合意で、やっぱり、「この時期だから」急に和解とか言い出したんだと思えます。


 “HARD talk”のスティーフェン・サッカーが面白いとこは、ハマスファタハ大連立に予想される不安定要因を次々挙げて訊いていくとこ。

 大雑把な訊き方しないんだわ。
 日本のインタビュー番組だと「うまくいかないんじゃぁないですか?」みたいな大雑把な訊き方することもあるんだけど、そーゆー訊き方じゃぁないの。
「あなたのハマスの同僚が、殺害されたウサマ・ビン・ラディンを『イスラムの英雄』と述べた声明を発表してますね。つまり、ハマスは今でも、過激武闘路線なんじゃぁないですか?」。
「私たち、ハマスの一部のみをとらえて、誤解しないでいただきたい。ハマスの内にも色々な意見があるのです」
「いや、色々な意見があって、統一できてないなら、やはりファタハと連立しても政権維持ではきないのではないか? と、そうした主旨の質問をしてるのですが」

 細かな言い回しとかは、ちょっとアタシが恣意的に調整しましたけど。概ね上記のようなやりとりを延々20分近く繰り返すの(笑)。

 ハマスの人は繰り替えして、「ハマスだけを一方的に非難するな、イスラエルも非難しないのは欧米の偏見」って意味の話をしようとするんだけど。スティーフェン・サッカーは、繰り返し「今回訊きたいのは、過去の経緯じゃぁないんですね。これから近い将来のファタハとの大同連立がうまくいくかどうか、について訊きたいんです」って、話の筋を引き戻す。

 結局、結論らしい結論は何も出ないで番組は終わっちゃう。
 番組中スティーフェン・サッカーは、「うまくいかないんじゃないですか??」って質問はインタビュー相手に重ねても、視聴者に向けて「やっぱりうまく行きそうないですね」みたいな個人的意見はいっさい言わないで番組を終える。

 ガジ・ハマド氏の言い分がどこまで信頼できるかは、視聴者のみさん1人1人が判断してください、ってことだし。
 視聴者の判断材料になる応答を引き出す質問は、限られた時間内で精一杯訊きました、ってことなんだわ。
 そうは明言しないけど、インタビューの意気込みを観ればわかる。


 実は、報道(インタビューだって、広い意味での報道よ)って、別に、結論やまとめの類がつかなくても成り立つのよね。
 例えば、アタシは、スティーフェン・サッカーの筋を正した質問に、ハマスのスポークスマンが頑なに、直接の答を言おうとしない様子を観て「あ、ハマスファタハの大同連立、やっぱりうまくいかないわよね」って思ったわけ。

 もちろん、1視聴者の個人的な判断。
 報道って、視聴者がそれぞれに個人的な判断を抱くに足る、考える材料を提供すればそれで使命は果たしたようなもんよね。
 レポーター個人なり、報道局の公式見解なりを、視聴者に向けて報知するのって、それは本来の報道に、何かが+αされたもんなんだわ。
 しばしば混在して、視聴者も判断に迷うことがあるけれど。基本は別種の報道。