DRMが死んだ日

LM-72007-04-09


英EMIグループはこのほどiTunes Store上で、DRMを付与しない音楽コンテンツの配信を始めると発表した。従来からあるDRM付きの楽曲が1曲0.99ドル、それに対してDRM無しの楽曲が高ビットレートになって1.26ドルとなる。多少高くても、音質が良くiPodでなくてもどのオーディオプレイヤーでも聞けるとなれば、DRM無しのバージョンを利用する人も多いだろう。

なによりもAppleの英断を賞賛したい。DRM著作権者の権利を守るあまり、ユーザの利便性を損なう技術であったことは明白であり、ユーザがお金を買って払った楽曲が一種類のオーディオプレイヤーでしか視聴できないと言う異常な状況を是正する最初の一歩だと思う。発表があった4月2日はDRMが死んだ日として記念に残る日になるかも知れない。

ユーザは誰一人としてDRMを望んでいないにも関わらず、今まで頭の硬いレコード会社がユーザに不便を強いてきたのだ。レコード会社がコピーコントロールCDCCCD)と呼ばれるCD規格を逸脱した円盤を流通させ、ユーザを混乱に陥れたことは記憶に新しい。DRMは複雑化の一途を辿り、単純なCombined Deliveryだけでなく、よりフレキシブルな著作権保護が可能なSeparate Deliveryの規格化、複数デバイスのサポート、同一ドメインに属するユーザ間のrights授受等々と、仕様が肥大化しつつあった。また相互に互換のない複数の規格が乱立し、特許の絡みもあってどのDRMをサポートすべきかの決定はオーディオプレイヤーメーカーにとって頭の痛い問題になりつつあった。

それでもAppleiTunesで収益を上げており、またDRMでもプロプライエタリな規格が事実上のデファクトとなるなど、大きなアドバンテージを有していた。Appleとしては顧客と技術を囲い込むために現状のDRMの採用を続けるという選択肢もあったはずである。ところが彼らはDRMを排除するという英断を下した。たとえそれが結局はEMIとAppleの利益を最大化すると言う目論見の元で成されたものであったとしても、他の選択肢が無く消極的に選択されたものであったとしても、ユーザにとって確実によい方向の変化だ。

今回の発表を受けて、MicrosoftのZune MarketplaceもDRMフリー楽曲を販売する意向を示しており、他社も追随する構えのようだ。これによってDRMという足かせを外されて、オンラインコンテンツ配信サービスがより普及すれば面白いと思う。

一方、地デジのコピーワンス議論の迷走ぶりからも明らかなように、日本におけるDRMフリー化はいまのところ期待薄のようだ。ガチガチのDRMで保護された着うたフルが日本で好調なこともDRMフリー化への障害となるだろう。著作権者の意見を代表する立場のACCS久保田氏は、5日に発表された「デジタル時代の著作権協議会」活動報告の中で、DRMフリーは行き過ぎ、複数デバイスで使えるDRM導入が必要と主張し、早速対抗の動きを見せている。米国で追随する動きが出ているのと反対の反応だ。

日本ではどうも欧米に比べて著作権者の力が強すぎるように感じる。親会社のEMIがDRMフリーへの移行を明らかにしたのに、子会社の東芝EMIは,日本国内のレーベルとしては唯一未だにCCCDの採用を続けている。こんなことではオンラインコンテンツ配信サービスにおいて欧米の後塵を拝することになるのは火を見るよりも明らかだ。どこからこんな日本だけの特異な状況に陥ってしまったのだろうか? まったく、国境がないデジタルコンテンツの流通で島国根性を発揮しなくても良いだろうに。