表外漢字字体表のヒゲ政策がダメな理由

  • 明朝体の筆押さえ(ヒゲ)には、「分」や「公」などの上部の「八」に付くものと「父」や「延」などの右払いに付くものがある。 以下、便宜的に前者を「ハチヒゲ」、後者を「チチヒゲ」と呼ぶ。図は写研の本蘭明朝、ヒゲありモード。


  • 多くの書体あるいはシステムは、「常用漢字(と以前からの人名用漢字)なしなし、表外字ありあり」というルールを採用している。写研の石井明朝・本蘭明朝のヒゲなしモード、大日本の秀英明朝、凸版の凸版明朝など。ヒラギノ明朝や小塚明朝もこのグループである(下図はヒラギノ明朝W3)。



  • ヒゲのつけ方に関しては、このようにいくつかの流儀が存在するが、それぞれに思想があるのだと思う。たとえばリュウミンの書体設計は、「チチヒゲは外しても成立するが、ハチヒゲは必須の要素である」というような主張を含んでいるのだろう。
  • 第22期国語審議会答申の表外漢字字体表(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/kokugo/toushin/001218c.htm#2)では、例示フォントである平成明朝の(もともとあった)ヒゲが、わざわざ外されている。もちろんその意図は「常用漢字との不整合をなくしたい」というものだと思われる。その結果は、どうだろう。
  • 表外漢字字体表の採用した新ルールは、「ハチヒゲありチチヒゲなし」。つまり、リュウミン常用漢字のルールを表外字に適用したようなかんじだ。しかし、字体表の例示フォントは、リュウミンではなく平成明朝である。平成明朝はもともと「常用漢字なしなし、表外字ありあり」のフォントなのだから、表外字に限って「ハチヒゲありチチヒゲなし」などというルールを持ち込む理由がわからない。この新ルールでは、常用漢字と表外字の間の不整合は、結局解消されていないのだ。
  • 加えて表外字の中にも、字体表に含まれる文字(新ルール適用)と含まれない文字(旧ルールのまま)の間に不整合が生じる。まとめると、もともと「常用漢字なしなし、表外字ありあり」という(それなりにすっきりした)二重基準だったものを、もっとすっきりさせようとした結果が、「常用漢字なしなし、字体表内の表外字はハチヒゲありチチヒゲなし、字体表外の表外字はありあり」という無意味に複雑なヒゲ体系である。下図は新ルール以前・以後の状況を小塚明朝で示したもの。「紛校」は常用漢字、「扮咬」は常用漢字表外・字体表内、「枌皎」は字体表外。