カメの書き順とか画数とかをめぐって

  • ところで、「龜」には3種類のパターンが存在する。実際にはそれ以外にも考えられるが、今回は下図において赤で示した部分のみに着目する。下図右の「突き抜けているけれどズレている形」は「龜」単独ではAdobe-Japan1-6に存在しないので、「龝」の旁で示した(「小塚明朝 Pro-VI」で表示)。これらの3種類の「龜」を、左から「龜A」「龜B」「龜C」と呼ぶこととする。


  • このうち書き順サイトで紹介されているとおりに書けるのは「龜A」のみ。「龜B」と「龜C」の画数は、「龜A」よりも2画多くなるものと思われる。つまり「龜C」は、見た目では「龜A」に近いが、構造的には「龜B」に近いと言える。
  • 部分字体として「龜」を含むグリフは、Adobe-Japan1-6の範囲で9つ(文字コードのレイヤーでは5文字)存在する。下図では、これをA=グレー、B=水色、C=ピンクで示してみた(「小塚明朝 Pro-VI R」「リュウミン Pr5 R」「ヒラギノ明朝 Pro W3」で表示。リュウミンヒラギノ明朝に「蘒」が1つしかないのは、Adobe-Japan1-5フォントであるため)。


  • 小塚明朝における部分字体「龜」は、ソースの特徴を忠実に反映している。たとえば「鬮C」「龜A」「龝C」はJIS X 0208:1990の、「鬮B」「龜B」「龝B」はJIS X 0208:1978の例示字体と同じである。リュウミンは「龝」と「龞」においてA/Cの逆転が見られるが、これ以外は小塚明朝と共通。ヒラギノでは、部分字体「龜」は「龜A」に統一されている。
  • 「龞」は、APGS(Apple Publishing Glyph Set)における写研ソースの文字(CID=20055)であり、Mac OS X 10.1におけるヒラギノの実装を経由してAdobe-Japan1-5に収録された。写研の「龞」の字形は確認していないが、A、B、Cのいずれであったにせよ、ヒラギノの実装の時点で(ヒラギノのデザインの方針として)Aに正規化され、これが小塚明朝に引き継がれているものと思われる。
  • 「龞」はJIS X 0212補助漢字)にも含まれ、その例示字体は(Aではなく)Cである(下図)。この「龞C」はAdobe-Japan1-6には収録されていない。いや、「収録されていない」のではなく「Aと区別されない」と考えるべきなのだろう(実際、リュウミンのCID=20055の実装はCである)が、Adobe-Japan1-6が2画も画数の異なる漢字を包摂している例を、わたしは他に知らない。