『対話の可能性』vol.1 「デタラメでキレイになる。」 1

トランスクリプト『対話の可能性』vol.1 「デタラメでキレイになる。」 (2008年12月18日 渋谷 UPLINKで収録)
1◆フキンシンな美学

宮台真司(以下、宮台):おつかれさまでした。よろしくお願いします。とはいえ、僕の話なんかに時間使うのはもったいないよぉ。もっとライブやらないの?
日比谷カタン(以下、カタン):(ライブでは)ちょっとしゃべりすぎてしまって、ホントに集中が切れそうになりましてねえ。あのまんまいっちゃうとホントに色んなことがどうでもよくなってホントにデタラメになるんですよ。まあ、そのほうがキレイになるんであれば、ライブなんてやめちゃったほうがいいですけど。...みたいな話をするんですよね(笑)。あ、強引ですか?(※客席に向かって※)デタラメなんだからいいじゃないですか。
宮台:みんなに聴いていい? 今日さ、カタンさんを初めて見た人ってどのくらいいるの? 半分くらい? 僕ね、カタンさんのライブを最初に見たのが、チェコ大使館で開催されたシュヴァンクマイエル*1についてのドキュメンタリー作品の上映会なのね。これは上映とライブを組み合わせた複合イベント*2でした。僕はそのとき、シュヴァンクマイエル人形アニメよりもカタンさんのパフォーマンスのほうが面白いと思いました。そのしばらく後、チェコ大使館も絡んで、シネセゾンシュヴァンクマイエル映画特集のオールナイトイベント*3があったんです。そのとき全体のスピーチを僕が頼まれた。シュヴァンクマイエルというと、ある時期からゴスロリ系の女の子が集まって見るようなゴスロリアイテムになって、その場にもゴスロリがうようよいたんです。だから「お耽美を期待して見にきて、期待通りお耽美を楽しんで帰るようなヤツは、人形劇の本当の面白さを知らない。チェコには、ブジェチスラフ・ポヤル*4とか、イジートルンカ*5とか、必ず見る側の期待を裏切って名状しがたい何かを観客に持ち帰らせる作家たちがいるんだ」という話を...
カタン:...上映の前にしたんですよ。
宮台:上映の前にしたんですよ。(会場:笑)
カタン:凄いですよね(笑)。私も客席の後ろで笑いをこらえていたんですけど。
宮台:(カタンさんは)笑ってました! シネセゾンの上映会が、チェコ大使館のときみたいに、日比谷カタンのパフォーマンスが見られるイベントであれば、「日比谷カタンさんのほうが全然面白いよ」って言いたかったんです。チェコ大使館で見たときに思ったのは、「カタンさんは人形よりも人形っぽい」ってこと(会場:笑)。人形ってのは、形代(かたしろ)であって、実体が何なのかよくわからないのがポイントです。モノかと思えばヒトのようでもあり、ヒトかと思えばモノのようでもある。チェコ大使館のときも、この人は芸術なのか、芸術家のフリをした食わせものなのか。なんだかよくわからない存在だと思ったんです。
カタン:...僕なんかただのいちデザイナーなんですけどね(会場:笑)。本当に、そういう風に言っていただけるのは有難いんですけど、僕の中ではあまり芸術とかの意識がないので....
宮台:僕ね、今日のライブ聞きながら、いっぱいメモしちゃったんですよ。

*1:ヤン・シュヴァンクマイエル:1934年チェコスロバキアプラハ生まれ。シュルレアリスト、アニメーション/映像作家、映画監督。長編映画作品に『アリス』(1988)、『悦楽共犯者』(1996)、『ルナシー』(2005)などがある。

*2:2007年9月4日(火) チェコ大使館で開催された「[シュヴァンクマイエルのキメラ的世界]と[日比谷カタン]を2007年9月4日(火)チェコセンターに於いて鑑賞する悦楽共犯者たち。」http://www.geocities.jp/qulwa/chimeres-katan.html のこと。『ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展〜アリス、あるいは快楽原則〜』(http://www.lapnet.jp/eventinfo/img/cm/lm/070825_svankmajer/content.html)の関連イベントとして開催

*3:2007年9月8日エスクァイアマガジンジャパン&コロムビアミュージックエンタテインメントpresents「シュヴァンクマイエル ナイト」シネセゾン渋谷でシュヴァンクマイエルの13作品を上映した。http://columbia.jp/prod-info/XT-2485-6/info.html

*4:ブジェチスラフ・ポヤル:1923年生まれ。チェコの代表的なアニメ作家。人形、レリーフ、切り絵、セルなど色々な素材を使い分け、カンヌでの最優秀短篇映画賞を皮切りに、ベルリンやアヌシー等の映画祭で数々の賞を獲得。作品に『飲みすぎた一杯』『ライオンと歌』など。

*5:ジートルンカ(1912-1969):プルゼニュ生まれ。チェコを代表する人形アニメ監督にして人形作家、絵本作家。

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