司書省令科目改正(再び)

司書とは、「図書館法」に定める図書館員であり、学校に付属する図書館や図書室は該当しないと規定されている。大学図書館学校図書館に勤める館員は、図書館法上の「司書」ではない。まず、この法的根拠を最初に示して置きたい。

「図書館法」から

第2条 この法律において「図書館」とは、図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保有して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設で、地方公共団体日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人が設置するもの(学校に附属する図書館又は図書室を除く。)をいう。


上記引用のとおり、「図書館法」でいう「図書館」とは、「一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設で、地方公共団体日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人が設置するもの(学校に附属する図書館又は図書室を除く。)」と明記されている。


つまり、私たちが「司書」と呼べるのは、公共図書館の司書のみでなのである。ここを押さえておいて、今回の「図書館法」改正に伴う「司書資格のための省令科目」改正に再び言及したい。


拙ブログ2009年01月29日でとりあげた「司書省令科目」の改正案は、いわゆる図書館法にいう「司書」ではなく、大学図書館や研究図書館を対象とした「図書館学」になっているところに問題点がある。対象をそのような研究機関における図書館職員であれば、この科目は概ね賛同できるものだ。問題は司書資格のための「省令科目」が、内容的に「公共図書館」科目ではなく、「図書館情報学」科目になっているところにある。



パブリックコメント(結果公示案件詳細)2009年2月25日(案件NO.185000361)「司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目の在り方について」(これからの図書館の在り方検討協力者会議報告書(案))に関する意見募集の結果概要について


公共図書館の役割の多様化は理解できるものであり、都市部の一部は、改正予定省令科目が妥当だろう。しかし多くの、市町村図書館の実態からの乖離は避けがたい。実際、パブリックコメントの回答が、41件、内「大学教職員」が25人、大学が2件。「図書館司書等」が5名というものであり、多くは大学関係者の回答であった。現場の公共図書館からは、多くみても、10件に満たない。これで、真に公共図書館のための「司書」養成ができるのだろうか。


しかも、驚いたことに、コメントの中に「大学図書館の運営や情報リテラシー教育に関することが明記されていないようで、実際に授業でどの程度取り上げられるか心配する。」といった見当違いのコメントを取り上げている。


図書館司書とは、公共図書館の司書であり、図書館経営とは公共図書館の経営であり、大学図書館は対象ではない。「大学図書館の司書として採用される職員の学歴が、大半大学院卒になりつつある現在、院生が受講するに値する科目があっても良いのではないか。」などという、これもとんでもない見当違いのコメントが掲載されている。これら見当違いの意見が記載されること自体が、「司書」の法的根拠に対する認識が間違っていることの証明にほかならない。



たしかに「図書館司書」が公共図書館に限定されていることに問題があるとも言える。法的な「司書」規定を変更すれば、「協力者会議」の提案は、大きな問題点が解消される。その点次の意見は、公共図書館からの、「司書省令科目」の問題の根源を突いている。

「日本の公共図書館をどうしていきたいのか、方向性がよくみえない。中小の公共図書館の現場で直面している様々な問題についての把握が不十分で、必要としている科目構成になっていないように見える。」


つまり、公共図書館の将来像がこの「改正省令科目(案)」からは見えてこないのだ。*1



2009年2月18日付けで、「これからの図書館の在り方検討協力者会議」による「報告書」が、文科省のHPに掲載されている。


http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/019/index.htm


「司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目の在り方について(報告)」と題するもので、基本はパブリックコメント募集時の原案と大きな変更はない。


結論的に私見をまとめればこうなる。図書館法にいう「司書」養成の「省令科目」は、公共図書館の現場を直視する必要があり、現状の公共図書館を踏まえた「科目」にすべきこと。ただし、それとは別に「図書館情報学」として、司書養成に追加するかたちで、大学や研究図書館に勤務する図書館員養成のための科目をつくること。


大学図書館専門図書館等の職員を図書館法にいう「司書」と勘違いしているところに根本的な問題があり、図書館学の教育を担当している教員レベルで組織した「協力者会議」は、大学での図書館学を前提にしている、としか思えない。この点について、関係者の猛省を促したい。


図書館関係者ブログで、「司書資格省令科目」への言及がほとんどみられない故、あえて再度この問題について覚書として残しておきたい。


図書館が教えてくれた発想法

図書館が教えてくれた発想法

図書館のプロが教える“調べるコツ”―誰でも使えるレファレンス・サービス事例集

図書館のプロが教える“調べるコツ”―誰でも使えるレファレンス・サービス事例集

*1:なぜ見えてこないかは、拙ブログ2009−01−29を参照していただきたい。改正案では「図書資料」より「情報」を優先していることに言及しておいた。