「人類は衰退しました」

「ぼ、ぼくなのでは?そろそろ、ぼくなのでは?」
四番目の妖精さんが、待ちきれない様子で両手を挙げます。
「ではあなたは……」
「じぶんでおなまえつけてみては?」
「あなたもですか。いいですよ。どのような名前に?」
「ちくわ」
「食べられたいんですね……」
「まちがいです?」
「ある意味」
「ならばー」
ちくわ(仮名)氏は、まくふぁーれん氏をチラ見します。
「さー・ちくわ」
「食べ物は貴族にはなれませんね」
「なんとー」
本当はなれるんですけど。
ここでサーロインを持ち出しても話が複雑になっちゃいますから、ちくわさんで決定とします。


あらすじ

人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀。人間は地球での主役の座をとっくに明け渡し、すでに地球は"妖精さん"のものだったりします。「わたし」は人類最後の教育機関を卒業し、妖精さんと人間の間を取り持つ国家公務員の"調停官"として故郷に帰ってきました。しかし、調停官が重要な役割を担っていたのも既に過去のこと。今の調停官は名ばかりの閑職だったのです。楽なのはいいんだけど何もしないのもなんだかなぁ、ということでとりあえず妖精さんに挨拶に伺う「わたし」でしたが…


やまだはじめ?

『家族計画』や『CROSS†CHANNEL』で有名なエロゲのシナリオライター田中ロミオ氏の初小説。自分は氏の作品は『家族計画』しかやってない(と思われた)のでファン、というわけでもないのですが経歴を見てみると『加奈』も手がけていることが新たな事実として発覚。忘れもしない我がエロゲデビュー作ですよ…あれは名作であった。泣きゲーから逝っちゃったコメディまで幅が広い作家さんだと思います。


スピンアウト!スピンアウト!

あえてひとりだけキレイな作風でダークホースしようとして……軽く失敗して横道スピンしてできたのがこの小説です。
この作法をスピンアウトといいます(嘘です)。

ガガガ文庫創刊ラインアップがカオス若しくはとんがった作品が多いだけに、氏のイメージと違うまったり癒しな作品を最初に投入してきた所にまず驚く。他のラインアップの方がいつもの作風に近い(少なくとも童話風味よりは)だけに「あえてひとりだけキレイな〜」という辺り逆に毒というか、らしさを感じなくもないのですが、他の創刊ラインナップが逆にキレイ所ばっかりだったらどんな作品にする気であったのか。他にsnegなのがあるだけに、エロゲ畑出身の作者が書いた話が全くそんな要素が皆無なのも面白い。
で、肝心の内容ですが概ねほのぼの御伽噺できています。人類の世界は確実に終末に向かっているわけですが既に悲壮感は皆無で全編ゆっくりまったりな雰囲気。高度な知識を持っている筈なものの、楽しいこととお菓子が大好きでお気楽極楽な妖精さんの言動がいちいち可愛らしい。主人公である「わたし」も地味ながらいい性格してるので妖精さんとの掛け合いが時折明後日の方向に飛躍したりと大変面白くニヤニヤできます。掛け合いだけでこれだけ楽しめるのは凄い。ここが、作者の本領発揮…なんだけど同時にこの部分が横道スピンであり概ねほのぼのの理由。牧歌的な雰囲気の中で稀に繰り出されるクリティカルな表現が周りが周りなだけに一筋縄ではいかないような印象を残します。でも、展開はまったり展開のまま進むんだけどね…多分、きっと、そうに違いない。
一応物語の中でオチもつけてはありますが、基本的にドラマティックな展開とは無縁なのでそういうのを期待してると肩透かしを喰らうかも。とにかくキャラ同士の掛け合いが面白いのでそこを楽しめるなら、今までにないタイプの作品であり大変にお勧め。複線も相当残ってるので次巻も出るはず(売れたしな!)…楽しみ。

409451001X人類は衰退しました
田中 ロミオ
小学館 2007-05-24