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2012-02-23
時は貨幣なり―『TIME』
"Time is Money"
(Benjamin Franklin)
時は金なり。いまさらそんなことは分かっている。だが言葉の本当の意味で「時間が貨幣になる」とすれば、世界はどんな風景になるだろうか―そんな発想から生まれたSF映画。邦題は『TIME』だが、原題は『IN TIME』。以下ネタバレ。
25歳で肉体の変化が止まり、それと同時に腕に刻まれたデジタル時計が「余命」を表す。人間の活動は、労働においても、犯罪においても、交渉においても、全て「余命」の取引になる。この発想は面白い。
だが、SF好きの自分にとっても、途中の展開はあまりに退屈だ。スラム出身の主人公が、富豪の娘と恋におちて、半ば彼女を誘拐する格好で逃避行。スラムの人が文字通りその日を生きるのに精一杯な一方、不必要なまでに時間を溜め込んでいるという不平等を解消すべきだというのが主人公の信条。これって、昨年あたりにアメリカのウォール街を騒がせた「1%対99%」の図式そのもの。時間版の格差社会。なんのことはない。「富の集中」に対する批判が、「時間」に形を変えているだけ。もちろんあのデモよりも映画の制作の方が早いのだろうけど、なんのひねりもない主張にちょっとがっかり。
さらにがっかりするのはその先の展開。こうした「時間の集中」を解消して、スラム街の人にも広く時間を再配分しようという主人公の信条に対して、彼女の方もいつしか共感するようになる。そして、自分の父親に対して「身代金」を要求することに加担するようになる。
いやあ、これも既視感ありあり。ストックホルム症候群の代表的な事例とされている「パトリシア・ハースト誘拐事件」そのものだ。となると、銀行強盗をするだろうなという展開も読めてしまい、その予想通りの展開となって、これまたちょっとがっかり。なぜ有名な事件のプロットをそのままなぞるのか。
主人公とヒロインは、強奪した時間を貧民に配分していく。その姿はまるで「ボニー&クライド」のようにスタイリッシュだ。だが、エンディングに至っても、何ら抜本的な解決はなされず、二人の行く末もはっきりとは描かれない。いくらB級SF映画といっても、発想勝負だけではつらいと言わざるを得ない。もしかしたら良作になったかもしれないだけに、展開の安易さと、中途半端なエンディングが残念。
キャスティングは「25歳で外見の成長が止まる」という設定から若手の美男美女揃いで、画面も実に華やか。主人公のジャスティン・ティンバーレイクは細身のスーツを着こなしてスタイリッシュ。ただ、演技の深みは今後の成長に期待。ヒロインのアマンダ・サイフリッドはショートボブの個性的な髪型で存在感を示していた。が、作品のイメージからするとちょっと肉感的過ぎると言ったら欲張りすぎだろうか。
『ガタカ』のアンドリュー・ニコルが監督・脚本ということで過大な期待を抱いてしまったが、個人的には『ガタカ』の方に軍配を上げたい。
2012-02-22
冬目景的幻想ワールド―『マホロミ(1)』
線の細い男子に、活発な幼馴染女子、そして謎めいた美少女―
そう。ここにあるのはいつもの冬目景。そして、何気ない日常の中に、突然ぽっかりと異世界への入口が開くあたりも、どこかで見たような冬目景ワールド。現実なのか、幻想なのか、その境が極めて曖昧模糊としている。
具体的な内容は、だいたい以下の公式紹介文の通り。
冬目景、最新連載!待望の第1集!!
土神(にわ)は建築科の大学生1年生。ある日同級生の卯(あきら)と共に解体中の洋館に出かける。そこで見つけたドアノブに触れた途端、目の前に幻の扉が現れる。その夜、再び洋館を訪ねた土神は謎の少女から、それが建物の持つ「記憶」であると告げられる―――廃屋の中に佇み、同じ幻を見た彼女と出会い、土神の日常がざわめき始める…!!
煽り文には「!!」が連発されているが、まどろみの中のとりとめのない夢のように、物語はゆったりと、だが確実に、読むものを先へ先へと誘う。だが、この物語がどこに読者を連れていってくれるのか、それはまだまだ見えてこない。
冬目景の作品なので、今回もスローなペースになるだろう。場合によっては、途中で止まってしまうかもしれない。だが、それでもいい、この不思議な幻視ワールドがどこかに存在していてくれるだけでいい―なんて、そんな風に思えてしまうのはきっとファンの贔屓目ゆえだろう。
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2012-02-21
その瞬間、僕は世界を愛するだろう―『地上はポケットの中の庭』
一粒の砂に世界を見、
一輪の野の花に天国を見る
手のひらに無限をつかみ、
一瞬のうちに永遠をとらえる
(ウィリアム・ブレイク「無知の告知」)
ブレイクが夢想したように、世界を見たり永遠をとらえたりしたいというのは、人の本能かもしれない。だが、限りある生命を持つ人間にとって、それは見果てぬ夢のように思われる。では、もし、僕らがその夢を実現できるとしたら。もし、それが可能になるとすれば―それは「想像力」や「理解力」といった、人間の精神によってなされるものになるだろう。
作者の田中相は、表題作『地上はポケットの中の庭』で、主人公の老人にこう語らせる。
「この一瞬は続きも終わりもせず永遠の中に切り取られてある」
(田中相『地上はポケットの中の庭』)
そうだ。どう続くのか。どう終わるのか。そんな不安に付きまとわれていたら、この一瞬の素晴らしささえ正しく認識することさえできない。一瞬のうちに永遠をとらえ、永遠のうちに一瞬をとらえる。それこそがこの作品で示されている人生観であり、主人公が人生の時間を重ねて至った境地なのだ。その瞬間、僕は世界を愛するだろう。僕は世界に愛されるだろう。
収録作品は『五月の庭』、『ファトマの第四庭園』、『地上はポケットの中の庭』、『ここは僕の庭』、『まばたきはそれから』の5作品。特に味わい深いのは表題作と『ファトマの第四庭園』。「庭」というのが共通したモチーフになっているが、時代や場所、主人公の年齢も実にさまざま。読み通すと、時空を超越したような不思議な感覚を味わえる。こういう感性は大好きだ。
明らかにそれとは書かれていないが「因果」「悟り」「輪廻」といった仏教思想に通じる世界を感じる。「客観」よりも「主観」、「物質」よりも「精神」に重きを置いた作品。だが、決して情に流されすぎていない。壮大な世界・宇宙の中で、自分が何者であるかを考えさせらる一冊。
本書は『ITAN』掲載作品を中心とした田中相の単行本デビュー作になるが、今後が楽しみ。連作短編や長編も読んでみたい。
- 作者: 田中相
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/07/07
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2012-02-20
フェティッシュな、あまりにフェティッシュな…『森薫拾遺集』
『森薫拾遺集』を読んだ。
実は、ninetailsfox63さんち(みみずくのとまりぎ)で
収録作『昔買った水着』は、人妻+水着+畳+着替えという超フェチな短編で、とてもムラムラします。
作者の好みが大爆発しているのでファンはすぐに書店で買うように。
表紙からして尻フェチ爆発なのだが、中身はもっとフェティッシュだった。正統派メイド、眼鏡、黒髪あたりは序の口。最高に萌えたのは、ぶかぶか制服。『Aチャンネル』のトオルにも通じるような。こういうフェティシズムを何の衒いもなく情熱を持って描き上げる森薫の素晴らしさ。もう一生付いていきます。
- 作者: 森薫
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