国内の不平等は持続的な経済成長を妨げる

フィナンス&ディベロップメント2011年9月号より
Berg-Ostry「平等と効率〜両者のトレードオフ、両立か?」を読みました。

フィナンス&ディベロップメントはIMF(国際通貨基金)が発行している機関誌ですが、最近日本語版も見れるようになったようです。
興味のある方はここを見てみてください。

その中で、今回紹介するのはIMF調査局のアンドリュー・ベルク氏とジョナサン・オストリー氏による国内の所得分配の公平さと長期的な経済成長との関係に関する研究である。

1人当たりGDPの水準と国内の所得格差との関係について有名なものにクズネッツの逆U字仮説というものがある。これは、下の図のように世界各国の1人当たりGDPの水準と国内の所得格差をグラフ化すると逆U字型の関係が成立するというものだ。この仮説によると、所得水準が低い時には、経済発展の進行により国内の所得格差は拡大するが、ある程度発展が進むと国内の所得格差は縮小していくことになっている。

一般的に、1人当たりGDP水準が低い途上国の方が先進国より経済成長率が高いことを考えれば、経済成長の高い国では国内格差が拡大する傾向があり、国内格差が低下する国は経済成長率が低くなることが考えられる。
過去の著名な経済学者には、国内格差の拡大を抑制するような社会では、個人や企業などが自らの所得を増加させようというインセンティブを損なうことになるために経済成長は実現しにくくなるため、国内の「平等」と経済成長を実現する「効率化」にはトレードオフが存在すると指摘するものがいた。

これに対し、ベルク氏とオストリー氏の研究によると、経済成長が短期で終わってしまう国と長期にわたって持続した経済成長が実現する国とを比較することによって、国内の所得格差が小さくなる国ほど、長期的に持続した経済成長が実現する傾向にあることが示されている。

図3の横軸は国内のジニ係数*1の大きさを、縦軸は経済成長が継続した期間を示している。これを見ると、国内格差が小さい国の方が経済成長継続期間が長くなる傾向にあることが分かる。

さらに、経済成長期間を決めると考えられている他の有力な指標(政治体制の民主化、貿易の自由化、海外直接投資の受け入れいの大きさ、対外債務の少なさなど)と比較した時、国内の所得格差が経済成長期間に与える影響は、他の指標よりも強い影響力を持つことが分かった。(下の図を参照)

このことは、国内の低所得者層の所得を改善させ、国内格差を縮小させる政策が、経済成長を促進させる有効な手段で有ることを示唆しています。

他にも興味深い研究が紹介されているので、興味のある人は一度IMFのサイトを覗いてみてください。

今日はこの辺で

*1:所得格差の程度を測る指標、この値が大きいほど国内格差が大きいと考えられる。