day afeter tomorrowの続き

書いていると鬱になりそうで嫌なんですが、せっかく話が盛り上がっているので頑張って続けてみます。今日のお話は昨日のコメント欄の続きの民間保険です。先に書いておきますが、このお話については私はまだまだ勉強不足なので、昨日の論議の交通整理を中心にしたいと思います。

多くの医師の思いとは裏腹に医療崩壊の道筋は混合診療に向かっています。これは財政面から確実で、限界を超えた医療費削減政策は医療機関の経営基盤を破壊していますが、医療を破壊してしまうわけにも行かず、新たな財源をどこかに求めざるを得ません。国が出さないとなると患者が出す以外に方法はありませんし、医療費削減政策は真綿で首を絞めるようにその方向に現在の医療制度を追い詰め、確実無比に効果を発揮しています。

どうしたいかのプランも本音剥きだしで書かれています。こういう本音を公式に発表し、それを遂行させるのにもっとも大きな影響力を持つところが経済諮問会議です。ここで提唱されている医療改革には

    公的保険は最低限のセーフテーネットの役割とする
との趣旨が謳われており、最低限以上の治療は民間保険が担うべしと話は続きます。感情では受け入れがたいのですが、効果が確実無比の医療費削減政策が続く限り、民間保険導入による混合診療への道筋は避けようのない明日と考えざるを得ません。

この経済諮問会議の資料が今朝はどうしても出てこないのですが、そこにはさすがにどんな民間保険を導入するかの具体案までは書いてありませんでした。ただモデルとしているのはアメリカ型であるのは周知の事です。アメリカのトップレベルの医療水準は世界一ですが、民間保険中心の一般医療制度がどんなものであるか、これについての実体験談をHMO加入者様から頂きましたので紹介しておきます。

私は現在アメリカで月に約8万円を支払い、Aetnaという保険会社のHMOに加入していますが、この保険ではどんな疾患でも、まずprimary physicianに診察してもらい、それからやっと専門医にみてもらえるということになります。まずprimary physicianにかかるのに予約してから一ヶ月、それから専門医にみてもらうのにも最低2週間くらい待たなければなりません。それも専門医にみてもらえる期間は3ヶ月以内、回数は4回までなどと制限があります。
たとえば、体調不良でprimary physicianにかかろうと思っても約一ヶ月先の予約しかとれません。かといって救急外来にいっても体調不良ということなら緊急性がないと判断され、何時間たっても果たしていつ診察の順番がまわってくるかわからないうことになります。
いかに日本の医療へのアクセスがすばらしかったのかということを実感しています。

私も嫌ですし、読まれた皆様も嫌でしょうがこういう医療の実現を経済諮問会議の皆様は医療改革の着陸点として実現のために日々努力されているわけです。ちなみに現在のプロジェクト・リーダーはかの八代氏です。

民間保険導入による混合診療導入が必至の情勢であるとしても、アメリカ型を直輸入するような医療体制は好ましくないと考えます。そこで元ライダー様がこんな提案をされています。

今後、民間保険が拡大することは規定路線と思われますが、なにもアメリカ型の民間保険参入を想定しなくても良いのではないか、アメリカ型で民間保険が参入できるのだろうか、更に言えば「参入できるとしても医療機関アメリカ型での参入を許してはいけない」と考えています。

ここで言うアメリカ型とは民間保険と医療機関の直接契約による医療保険を指します。それに対して、現在日本の民間医療保険は患者と保険会社の直接契約です。日本の医療機関は診断書作成でのみ保険金の支払いに係わっています。そして保険会社が患者に保険金を支払わなかったり、値切ったとしても医療機関に痛手はありません。しかも、患者への保険金未払いが多くなればマスコミは騒ぎますが、民間保険会社と直接契約した医療機関への未払いならマスコミは騒ぎません。ですから、後民間医療保険が今後拡大したとしても、このような日本型民間医療保険の拡大で対処すべきです。せっかくアメリカという反面教師がいる訳ですから十分に参考にしましょう。

昨日は診療の合い間に読んでいたので理解が生煮えだったのですが、論点をまとめてみます。

  • アメリカ型


    1. 日本で言う社会保険国民健康保険の機能をそのまま民間保険が果たすもの。
    2. 民間保険会社は医療機関と契約する。
    3. 民間保険会社は医療機関の診察内容を審査し、保険会社の契約内容に沿った分だけ支払う。


  • 元ライダー様の案(日本型)


    1. 現在日本で運用されている保険会社の健康保険のようなもの。
    2. 民間保険会社は患者と契約する。
    3. 民間保険会社は診察料のうち保険契約に適合する部分のみ患者に支払う。
保険は契約なので保険料に見合った診療しか支払いが認められないのが鉄則です。安い保険料では限定的な診療レベルとなり、高い保険料なら医療水準で可能なものをすべて可能となります。自動車保険を思い浮かべてもらえれば理解しやすいかと思います。自賠責が公的保険、任意保険が民間保険です。

元ライダー様の提案は日本での民間保険を自動車保険のようなものにするべきだの提案と考えます。自動車保険は交通事故に備えてのものですが、交通事故が発生した時に自動車保険は支払われます。その賠償額は事故の規模により様々ですが、決めるのは事故の規模となります。事故の規模によって決定された賠償額の全額を必ずしも自動車保険が払ってくれるわけではありません。

例えば交通事故を起し1億円の賠償が必要になった時、まず基本として自賠責の3000万円は支払われます。自賠責しかなかったら、残り7000万円は負担しなければなりません。ここで任意保険で5000万円の保険に加入していれば、自賠責と合わせて8000万円が保険から支払われ、自己負担は2000万円になります。さらに無制限の保険に加入していればすべて保険から支払われます。もちろん任意保険の保険料は補償金額が多いほど高額になります。自動車保険の基本的な仕組みなら皆様よくご存知と思います。

この自動車保険の仕組みを元ライダー様提案の日本型民間保険であてはめると、

  1. 自賠責が公的保険、任意保険が民間保険
  2. 疾病が発生しときに患者は医療機関を受診し必要な医療を受ける。
  3. 医療費は疾病の重症度によって決定する。
  4. 医療費に対する支払いはまず公的保険が支払われる。
  5. 公的保険分をオーバーした分を保険内容に応じて保険会社が支払う。
  6. 保険でカバーできなかった残りが自己負担となる。
アメリカ型との違いは、アメリカ型では保険契約内容によって治療内容そのものを規定してしまい、有効であると考えられる医療を契約で阻害されるのですが、日本型では医療内容でなく医療費に対する保険内容なので、保険契約内での診療の裁量権が保障されるというのが大きな違いです。

もちろんアメリカ型も日本型も現在の皆保険制度と異なり、金の切れ目が命の切れ目である事に変わりありませんが、私には保険契約によって診療内容が制約されるアメリカ型よりも、診療費によって診療内容が制約される日本型の方がまだマシなように感じます。どっちにしても現在の皆保険制度より劣悪なものであるのは確実です。

劣悪ではありますが、どちらかを選択しなければならないのなら元ライダー様提案の日本型の方が良さそうには感じます。