棚橋 vs 千葉 Part 1

棚橋泰文衆議院議員につきましては、正直なところ「名前をどこかで聞いたことがある」程度にしか存じません。衆議院厚生労働委員会での「棚橋 vs 長妻」の文字起こしをした時に、初めて顔とお声を聞いたぐらいです。別に棚橋ファンではありませんが、昨日のエントリーで衆議院法務委員会の件に触れたので、出典を確認する意味で「棚橋 vs 千葉」を文字起こししてみます。

ただかなり長いので、出来た分から順番に公開します。目的は憲法75条関連なのですが、今日のうちに出てくるかどうかは保証の限りではありませんので、そこのところは御了承下さい。ただその他の部分もなかなか白熱して面白そうではあります。

委員長

    これより会議を開きます。裁判所の司法行政、法務行政及び政策行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。質疑の申し出がありますので、これを許します。棚橋泰文君、棚橋君。
棚橋委員
    まず冒頭、大臣にご注意申し上げたい。定刻に来て頂けませんか、時間励行は社会人の最低のマナーだと思われますが、どう思われますか。
千葉大
    時間若干遅れましたこと、大変申し訳なく思っております。これからきちっと時間守らせて頂きます。

棚橋委員
    では大臣にお聞きします。シン・ガンス(辛 光洙)。何をした男かご存知ですか。何をした男か教えてください。
千葉大
    え〜、私は拉致をは〜、行なった、え〜、被疑者と認識しております。

棚橋委員
    被害者のお名前わかりますか?拉致被害者のお名前を?
千葉大
    えぇ、これにつきましては、え〜、原さんと私は承知しております(「下のお名前は」と棚橋委員より不規則発言)。原、え〜、ちょっと待ってくださいよ・・・えぇ、すいませんチョット・・・(大臣席に戻る)。

棚橋委員
    大臣どういうつもりなんですか。あなたは北朝鮮工作員で、原さんを拉致したシン・ガンス(辛 光洙)の釈放を要求したのではありませんか。しかもその日本人の被害者のお名前すら、まず後ろから、秘書官から紙をもらわないと名前がわからない、下の名前がお読みなれない、それであなたは治安を担当する大臣なんですか。

    私は大きな憤りを覚えますし、あなたは拉致の被害者や家族、国民にどうお詫びをするのですか。
千葉大
    えぇ、私は、え〜、決して拉致被害者のみなさん、あるいは、え〜、国民のひとりひとりの命の安全については、もっとも大事なものだと認識いたしております。先ほど、あの〜、名前を、え〜、う〜、失念させて頂きましたけれども、原敕晁(はら ただあき)さんでございます。え〜、私は、え〜、これについて、え〜〜、嘆願書と言うものに署名をしたと言う指摘を頂いております。まぁ、これについては、今かなり前の事なので定かではございませんけど、韓国の民主化運動の、え〜、に対して、え〜、活動していた、そういうみなさんを、を救済する、こういう趣旨の下での嘆願書に署名をしたのではないかと、認識をいたしているところでございます。

    それについて、この拉致被害者の拉致犯人が、そこに入っていた、言う事について、私もそこまで、その当時、え〜、しっかりと、お〜、考えていなかった、あるいは、その中に含まれている事について、よく調査をさせていただかなかった、言う事については、まぁ大変不注意であった言う風に現在は認識しております。

棚橋委員
    不注意程度なんですか。その程度の署名が大臣の署名なんですか。シン・ガンス(辛 光洙)と言うのは、日本人を拉致したテロリストですよ。そのテロリストを釈放するという署名をするのに、不注意程度でいいんですか。では、これは撤回しないんですね。
千葉大
    え〜、その時に、え〜、私はシン・ガンス(辛 光洙)だけに署名をしたものでないと、お〜、記憶をいたしております。たくさんの(「撤回するか、しないんですか、この質問にだけ答えて下さい」の棚橋委員よりの不規則発言)、はい、あの、それについては、署名した事については、事実でございますので、え〜、今撤回すると言う事ではございません。ただ、大変不注意であった事については申し訳なく思っております。

棚橋委員
    ちょっと待ってくださいよ、信じられません大臣。いいですか、大臣、今シン・ガンス(辛 光洙)は原さんを拉致した人間だとわかっているわけでしょう。署名を、釈放しろと、韓国大統領に向けてあなたは署名をしたんでしょう。今わかっているにもかかわらず、そのシン・ガンス(辛 光洙)の分だけでも撤回するつもりはまったく無いんですね。

    生きてるじゃないですか、釈放してくれと言う大臣の、法務大臣の要請が。それであなたは、あなたが拉致被害者拉致被害者の家族だったらどうするんです。そんな人がこの国の治安を守る法務大臣なんですか。撤回しないんですか。
千葉大
    今申し上げましたように、その署名をしたというのは、あの、私の記憶、御指摘の中で、事実であろうと思っております。それについて、今申し上げましたように、その中に、え〜、シン・ガンス(辛 光洙)が含まれていた事については、大変不注意で申し訳ないと思っております。現在であれば、そしてそれをきちっと認識しているのであれば、私も署名をする事はなかったと、私は考えております。

棚橋委員
    まず大臣に注意してください。答えてません。署名を撤回しないんですか、今であれば署名するつもりはありませんなんて聞いてません。私が今出ている署名を撤回するのかしないのか、そう聞いてるんです。撤回するんですか、しないんですか。
千葉大
    私も手許にその署名、どういうものであったかと言う事は、あの〜、ございませんので、どのような事かわかりません、どのような署名になっているのか。もしそれがきちっと存在をして、そしてその部分について、え〜、撤回を出来るというのであれば、まず別にその意志が無いわけではございません。ただものが存在と言うか、私の元にもございませんので、どのような形で、え〜、撤回をするのか、そういう事は、少し、え〜、実際の署名と言うものを確認しながらやらせて頂かなければならないと考えております。

棚橋委員
    大臣恐縮ですが、長々と誤魔化しような答弁、やめてください。じゃ、署名は今日現在では撤回しないんですね。つまり原さんや原さんのご家族、拉致被害者の方々、そもそも日本国民は、拉致をやったテロリスト、シン・ガンス(辛 光洙)に釈放要求していた治安担当の法務大臣の下で、我々の安全を守ってもらえるかどうかに、怯えながら過ごさないといけないんです。

    今日現在撤回するつもりがあるのか、今するつもりがあるのか、もう一度、一言でお答えください。無いなら無いで結構です。
千葉大
    え〜、繰り返しのお答えになりますけども、きちっとその署名について、確認をし、またそれが撤回できるものであれば、その意志はございます。

棚橋委員
    ではこれまでその署名の意志の確認のために、どういうご努力をなさったのですか。あなたは大臣になって何日です。
千葉大
    大臣になりましてから2ヶ月になります。その間、その署名がどのような形でなされていたものか、あるいはどこに存在をするのか、え〜と、私も調べさせていただきましたが、今までのところ、その現物や、あるいはそれの控え等々については、私の手許では、まだ調べがついておりません。

棚橋委員
    北朝鮮の外務省、外交官、確認いたしましたか。日本の警察庁にこの署名(だと思います)ついて何かあるか確認いたしましたか。確認されたんなら、それぞれいつ頃、どういう形で確認したのかお答え下さい・・・・・・失礼、韓国の外務省。
千葉大
    え〜、今それは部内でそれぞれ指示をいたしまして、確認をさせて頂いております。まあ、しかし、今のところ、その写し等々、下絵等々が存在するという事は報告を頂いておりません。

白熱してきておもしろいのですが、ここで第一部は終了です。全部で6部なんですが、

    へ、へばった
文字起こしは地味で陰気な作業で限界です。ただ続きはどうしても読みたくなるので、第2部まで頑張ってみます。

棚橋委員

    大臣就任後、何日目なんですか。お願いします。
千葉大
    私が就任いたしまして、え〜と、すぐにこのご質問を頂きました。直ちにこれをきちっと調べるようにとの指示をさせて頂いております。

棚橋委員
    すぐにと言うのは即日のうちですか、またどなたに指示をされました。法務省のどなたに指示をしたんですか。
千葉大
    えぇ、これにつきましては、え〜直ちに当日、あるいは翌日、だったかと思いますけど、おぉ、関係の部署に指示をいたしております。

棚橋委員
    関係の部署ってどこです。当日なんですか翌日なんですか。それから、あの、関係の部署なんて人はいませんので、どなたに指示をしたんですか。お願いします。具体的に教えてください。
千葉大
    えぇ、それは、えぇぇ、就任をいたしまして、え〜と、記者会見がございました。その時に指摘を頂いておりますので、直ちに、えぇ、指示をいたしました。それは私の元の秘書官室を通じてでございます。

棚橋委員
    すいませんが、大臣のこういう誤魔化す答弁やめてください。私は、指示を受けた翌日なのか、当日なのかと言ったのに、直ちに、直ちにとご返事がありません。当日ですか、翌日ですか。それから、秘書官室なんて人間はいません。法務省の担当局長なのか、秘書官なのか、どなたに指示をしたのか、どういう指示をしたのか教えてください。
千葉大
    今申しあげましたように、えぇ、指示をいたしましたのは、えぇぇ、大変、あの〜、夜遅いタイミングの就任でございましたので、当日あるいは翌日、ただちにと言う事で、ございます。決してはぐらかしている訳ではございません。また秘書官秘書室、秘書課長等々に通じて指示をしたと言う事でございます。

棚橋委員
    ちょっとひどいです。まず秘書官室と秘書課長って一緒ですか、違うでしょう。どちらです。秘書官に指示したのか、秘書官室の誰々と言う職員に指示したのか、秘書課長に指示したのか、そしてそれは韓国の外務省に外交ルートを通じて、確認するように指示をしたのか、お答え下さい。
千葉大
    これは、秘書官室と私も申し上げましたけども、これは秘書課長等を通じて、指示をしたと言う事でございます。そして、あらゆる関係箇所、調べるように、こういう事を指示をいたしました。

棚橋大臣
    では、即座に、法務省として、法務大臣の指示に基いて、韓国の外務省にこのような釈放嘆願書ですか、が千葉景子と言うお名前で出ているかどうか、外交ルートで確認しているんですね。あるいは、そういう事をキチンと確認しているという事を、この指示の後、確認をしましたか。
千葉大
    それは逐次報告は受けております。

棚橋委員
    では現在、韓国の外務省に照会中ですね。
千葉大
    それを含めて調査を続けていると、えぇ、私は承知をいたしております。

棚橋委員
    質問だけ答えて頂ければ結構です。現在、韓国の外務省に照会中ですか。
千葉大
    そのように承知をいたしております。

棚橋委員
    それであなたは調査中だから、調査中なんだから、原さんを拉致したシン・ガンス(辛 光洙)というテロリストに対する釈放要求は取り下げない。そういうことですね。あなたの所信表明では、確か、テロの未然の防止に努めるとともに、北朝鮮については日本人拉致問題等の重大な問題の解決に向けと書いてありますが、この姿勢、もしあなたがもし拉致被害者だったら、あなたが拉致被害者の家族だったら、いやそもそも治安を一番大事にするこの国の国民が、現職の法務大臣がテロリスト釈放嘆願書に署名をしながら、調査中だと言って、一切撤回請求を出していない今日、どう思われると思いますか。

    本当にこの国の法務大臣は、普通の市民の治安を守り、普通の市民の味方なのか。北朝鮮工作員の味方なのか、どっちなんです。
千葉大
    えぇ、御指摘でございますけど、え、北朝鮮工作員の側に私が立っていると言う事などは、とんでもない御指摘でございます。もちろん、国民おひとりおひとりの権利を、そしてまた、治安・安全をきちっと確保する、これが私の職責でございますし、私の基本的な考え方でございます。

棚橋委員
    では伺います。とんでもない御指摘だと言うのに、なんでシン・ガンス(辛 光洙)の釈放請求をしたんですか。なんで今、撤回しないんですか。国民の味方なんでしょ。シン・ガンス(辛 光洙)の味方じゃないでしょ。現にあなたの釈放要求は生きているでしょ。撤回しないんでしょ、調査中、調査中と言いながら、鳩山さんもそうだけど、あなたも、調査中、調査中と言いながら、自分の過ちを認めないで撤回してないじゃありませんか。

    それで北朝鮮の味方、工作員の味方と言われるのが心外だと言われても、当たってるじゃないですか。
千葉大
    先ほど申し上げましたように、え〜、私が署名をした、そう指摘されておりますし、その時の署名と言うのは、韓国の民主化運動、これに参画をされて逮捕された等々の、これまた普通のみなさんの、お〜、救済を図ろうという数十人の方に向けた嘆願書の署名であったと、私は認識をいたしております。そういう意味では、その中にシン・ガンス(辛 光洙)と言う方がおられた、シン・ガンス(辛 光洙)がいた、と言う事について、え〜と、きちっ、きちっと一人一人チェックをしなかったと言う不注意については、先ほどから申し上げましたように、大変、私も不注意があった、と言う風に今認識をいたしております。

棚橋委員
    二つ御指摘申し上げます。まずその程度の不注意で署名するんですか。私は、大臣が死刑をきちんと執行するかどうかも聞きたかったんですが、そんな不注意な大臣の署名では、この質問はもう聞くつもりになりません。そして何よりも、もう、世の中がシン・ガンス(辛 光洙)釈放のために、千葉法務大臣が署名をしたのがわかっているにも関らず、調査中と言う事で撤回はしない。その大臣の姿勢、国民がどう思うか、まずそれをきちんと申し上げたいと思います。

    もう一点。鳩山さん、脱税そうでしょう、違法献金等の疑惑、きちんとこれは起訴するんですか、お答え下さい。
千葉大
    えぇ、これにつきましては、捜査当局が厳正に、法に基いて、えぇ、必要があれば捜査をし、そしてまた起訴をするという事になるとであろうという事になると思います。それについては、捜査の具体的なことについては、私から申し上げる事はできません。

棚橋委員
    今、必要があれば捜査をするという事は、捜査してないんですか。
千葉大
    個別の捜査活動につきましては、私からお話を申し上げる事はできません。

棚橋委員
    でもいま、仰ったじゃないですか。必要とあれば捜査をする、必要とあらば捜査をしているものとして、必要とあらば捜査をするって事は、捜査をしていないって事でしょ。
千葉大
    必要であれば捜査をきちっとする事であろうと言うことです。それは今やっているのか、あるいはこれからやるのか、その事については具体的な捜査の活動でございますので、私からここで申し上げる事はできません。

どうやらこの先の展開予想として、課題の憲法75条問答が出てきそうなのですが、力尽きました。第3部も長いので土曜に挙げれるかどうかは自信がありませんが、期待せずにお待ち下さい。


目的に到着するまでに、たまたま拾い上げた嘆願書署名問題ですが、私はこの件について殆んど何も存じません。ですので、質疑応答に出てきた事実だけを簡単にまとめておきます。

  1. とある時期に韓国民主化運動の逮捕者の釈放運動があった
  2. これに対し嘆願書が作られ署名を求められた
  3. 釈放運動対象者の中に日本人拉致事件の有力被疑者が含まれていた
おそらく当時の千葉氏は、署名運動の有力者から頼まれて署名しただけで、釈放対象者の吟味まで考えなかったかと思われます。簡単に言うと有力者から頼まれたから署名しただけであったと推察します。そういう意味で不運と言うか、同情の余地はあるとは思います。

問題は千葉氏が法務大臣に就任した事です。現役法務大臣が、日本人拉致事件の有力被疑者の釈放嘆願書に名を連ねているのは良くなかろうとの指摘です。法務大臣就任前の署名とは言え、今でも有効との解釈は成立しますから、あんまり都合の良いものではありません。結果としての過ちは取り消せないにしろ、事後処置を適切に行うように要求されても無茶な要求とは思えません。

千葉大臣も事後処置に着手したと言明しています。

  1. 大臣就任後、直ちに(就任当日ないし翌日)調査を指示した
  2. 指示したのは秘書課長である
  3. 韓国外交ルートに対する調査も行っている
千葉大臣の答弁を聞いていると、本当にやっているのか、どれだけの熱意でやっているのか、少々疑問符が出てきそうな感触もありますが、とにかく大臣答弁として「やっている」と明言していますから、法務委員会では「やっている」事の確認で追及は終わっています。その肝心の調査ですが、大臣就任直後から継続して行なわれているにも関らず「調査中」です。

千葉大臣の答弁では嘆願書の原本の確認は愚か、写しとかもまったく情報が無いと明言されています。2ヶ月も法務省が調査して無いのですから、仮に真剣に調査をしていたとすれば、本当に無い可能性もあります。問題は「無い」としたら法務大臣としてどう対応するかになります。棚橋委員の主張は、私の解釈も入りますが、

    国会と言う公式の場で署名を撤回すると宣言せよ
もちろん撤回すると言えば、その有効性とか、なんとかで絡まれるかもしれませんが、法務大臣として相応しくない署名であり、嘆願書の本体が行方不明の状態ですから、これも一つの政治決着と思えないこともありません。しかし千葉大臣は撤回を拒まれます。千葉大臣の主張は、
    嘆願書の原文を確認し、手続きとして署名撤回が出来るかどうか検討して考える
この答弁をひたすら繰り返していると感じます。手続き論として間違っていませんが、そうなると、
  • 嘆願書の原書ないし写しが無い限り、署名は撤回しない
  • 調査中である限り撤回しない
2ヶ月の間、法務省が全力を挙げて調査しても発見できない嘆願書が、いつの日か発見されるまで、署名撤回の要求は拒み続けるという事になります。また嘆願書の原文を検討して、署名を撤回できないと判断すれば、撤回しない選択もあると付け加えておられます。もう少し言えば、調査中である限り署名撤回はありえないと言い換えても良いかと思われます。

この問題の本質がよく理解できていないのですが、結果として不適切であった署名の事後処置に、ここまで強硬姿勢を示すのが不思議です。もうちょっと丸く収めるのであれば、サッサと署名撤回宣言を出して、正式に撤回するには嘆願書原文の入手が必要であるから、これについては「調査中」とした方が良さそうな気がするのですが、千葉大臣はその選択を選ばれなかったようです。

外野で聞いていると、その辺の真意がよく理解出来ないのですが、政治的思惑がきっと色々あるんでしょうね。