新小児科医のつぶやき

2011-12-05 統計データはちゃんと見ませう

12/3付秒刊SUNDAYより、

政府統計『白血病患者』が本当に7%近く増加している!Twitterで話題に

政府の統計データを公開するサイト『政府統計の総合窓口』http://www.e-stat.go.jpに公開されているデータで、大変興味深いデータが話題になっている。今年の6月までの死亡原因の表についてだが、性・年齢(5歳階級)を見てみると、白血病患者が前年比で6.6%増加しているという。日本医師会は『白血病患者急増』はデマだといったばかりに、これは物議をかもしそうだ。

問題の表は政府が発表している「政府統計の総合窓口」の中にある『死亡数,性・年齢(5歳階級)・選択死因分類別 』という表。

それによると白血病患者の割合が前年比の6.6%になっていることが記載されている。もしこれが事実であるとすれば、原発の影響で白血病が増えているという噂もまんざら否定できなくなるし、日本医師会が『白血病患者急増』はデマだといった件も翻ってしまう可能性もある。

ただしこのデータは6月までのデータなので何か別の原因でたまたま増加しているだけなのかもしれないし、実を言うと白血病意外にも結核等、増加している死亡原因がチラホラあるのでそちらのほうが不気味ではあると感じる。

いずれにせよ、このデータが日本医師会の発表でないことは変わりがない。政府が正しいのか、それとも日本医師会がこれを認めるのか、時間がただ過ぎていくことにヤキモキせざるを得なくなってきた。

どうでも良いような飛ばし記事ですが、暇つぶしに付き合います。


日医はデータの認定者ではない

とりあえずですが、

    日本医師会が『白血病患者急増』はデマだといった件も翻ってしまう可能性もある。

日医の話とは、11/29付ネット上の書き込み「白血病患者急増 医学界で高まる不安」についてであるとするのが妥当ですが、日医が否定したのは現時点での白血病「発生率」7倍説の否定であり、さらにデマ記事に書いてあった日医会長のコメントなど行っていないの発表です。今回の原発事故の影響については正確なデータを未だ把握していないとしているだけです。

日医とて原発事故でこの先に白血病患者が増えないとは一言も述べていません。あくまでも現時点で確認できるデータで白血病増加、とくに7倍増説を裏付けるデータがないと言っているだけであり、この先で白血病増加を裏付けるデータが出てくれば当然認めます。現時点の「7倍増説否定」は「この先の白血病患者増加否定」と同じでないのはオリジナルを読めば明らかです。具体的には、

統計の数値につきましても、現段階でそのようなデータについて確認できず、信憑性を疑わざるを得ないものであります。

いつもながら高度の編集創作が加わると

    日医が白血病7倍増説デマ否定 → 日医が白血病増加説完全否定 → 日医は間違っているかもしれない

注釈を加えておくと、日医は疾患の統計データなど取っていません。データは各医療機関も集める事はありますが、公式のもの、とくに全国規模のものは国ないし公的機関によるものです。またデータの解釈は日医だって行いますが、別に日医の解釈が特別の重みを持っているものではありません。日医とて単なるデータ解釈者の1人に過ぎず、逆に日医が認めなくともさしたる影響はありません。

秒刊SUNDAYは日医がデータを認めるかどうかに異常な位置付けを勝手に与えていますが、単なる妄想であると断言しておきます。どうせなら学会が認めるかどうかならまだしも重みがありますが、日医が認めるかどうかなんて医療者の誰もさしたる興味も関心も無いと言えば宜しいかと思います。白血病発生率7倍増デマの作者も日医の存在を勝手に拡大して妄想していましたが、秒刊SUNDAYも同じレベルで妄想を膨らましておられるのは良くわかります。


面倒だがデータ処理

秒刊SUNDAYが唯一無二の根拠としているのが人口動態調査の白血病死亡者数のデータです。

    それによると白血病患者の割合が前年比の6.6%になっていることが記載されている。

秒刊SUNDAYの記事には人口動態統計の白血病死亡者数の部分の画像引用までありますが、そこには「680人」と「6.6%」増の数値が確認できます。個人的に秒刊SUNDAYはこの数値をどういう風に理解したのか極めて疑問です。「680人」が今年のいつのデータであるかを判っているかどうかさえ疑問と言う事です。人口動態調査の今年の速報分は6月分まで発表されていますが、「680人」は6月分のデータを指しています。1〜6月のデータを表にしておくと、


平成23年 平成22年 増減 増減率
1月 680 656 24 3.7%
2月 634 582 52 8.9%
3月 669 662 7 1.1%
4月 655 645 10 1.6%
5月 660 664 -4 △0.6%
6月 680 638 42 6.6%
3978 3850 128 3.3%


たしかに6月分の白血病死亡者数は前年度比で6.6%増えていますが、震災前の2月データではそれを上回る8.9%増です。さらに言えば6月の前の月である5月データでは前年度より死亡者数は減少しています。これだけのデータで何か言えるとは到底思えません。では平成22年と平成21年ではどうかです。


平成22年 平成21年 増減 増減率
1月 656 688 △32 △4.7%
2月 585 555 30 5.4%
3月 662 680 △18 △2.6%
4月 645 615 30 4.9%
5月 664 676 △12 △1.8%
6月 638 623 15 2.4%
7月 702 648 54 8.3%
8月 725 702 23 3.3%
9月 721 685 36 5.3%
10月 707 702 5 0.7%
11月 678 636 42 6.6%
12月 693 680 13 1.9%
8076 7896 180 2.3%

前年同月比のデータはバラツキが大きく、「6.6%」を越える月もありまし、そうでない月もあります。平成22年も1-6月は前年より下回る月が出現していますが、後半では前年を上回る月が増えています。こういう状況で今年の6月が去年の6月より「6.6%」増えたデータに意味を持たせるのはかなり困難です。ほいじゃ面倒ですが、年次推移はどうかです。


死亡数 人口10万人
対死亡率
前年比
単純増減数
前年比
単純増減率
2000 6766 4.9 * *
2001 6940 5.5 174 2.6%
2002 6969 5.5 29 0.4%
2003 7018 5.6 49 0.7%
2004 7048 5.6 30 0.4%
2005 7283 5.8 235 3.3%
2006 7429 5.9 146 2.0%
2007 7607 6.0 178 2.4%
2008 7675 6.1 68 0.9%
2009 7896 6.3 221 2.9%
2010 8078 6.4 182 2.3%

見ればそのままなんですが、白血病による人口10万人対の死亡率は漸増を続けています。2000年から2010年の間に1.6人増えています。死亡者数の単純増加率については変動が大きく、殆んど変わらない年もあれば、3%を越える年もあります。それでも緩やかに増加しているのだけは言えます。今年の1-6月の単純増加率は3.3%です。これとて7−12月の集計が出てこないとどうなるかは不明です。


あえてまとめると、

  1. 今年の6月の前年比の死亡増加率「6.6%」は高い方であるが、震災以前にももっと高い率で増加を示している月もある
  2. 今年の1-6月の死亡増加率は「3.3%」であるが、月毎の変動は大きく年統計が出るまでまだ何もいえない
  3. 最終的に年統計が「3.3%」になっても、同程度の増加率の年はある

白血病の発生率、死亡者数、死亡率が原発事故の影響で増える可能性がある事は否定しません。それこそ増えるか増えないは注目されているところです。ただし数値として現れるまでには時間がかかります。それこそ5年、10年と言う単位の観察が必要です。間違っても6月単月の白血病死亡者数の前年比が「6.6%」であるだけでは何も言えません。

こういうデータを出すと、政府集計だから「そもそも信用出来ない」「そのデータが正しい根拠を示せ」と頑張る人も出てくるようですが、正直なところそこまで付き合いきれないところがあります。人口動態調査に人為的な操作が加わっているかどうかを証明するのは反論者のお仕事です。陰謀論は暴いてこその陰謀論であり、自分の主張に不都合ないかなるデータもすべて陰謀論で否定するのは安易さも度が過ぎると感じます。

ここまで力を入れて統計データを掘り起こすほどの相手ではありませんが、すぐに踊られる人が少なくありませんから御参考までに出させて頂きました。

luckdragon2009luckdragon2009 2011/12/05 08:01 いちおう、こっちも。
> http://togetter.com/li/222594

こっちはギャグかな?
> http://togetter.com/li/222002
野菜って規格品以外は、けっこうでっかいのもあるのねえ。
桜島大根は元々でっかいし。

luckdragon2009luckdragon2009 2011/12/05 08:07 グラフがきれいにまとまってました。

> 統計的に見た、白血病起因による病死者数変移
> http://www.jgnn.net/ls/2011/12/post-3476.html

京都の小児科医京都の小児科医 2011/12/05 08:13 よく知らないのですが
白血病死亡者数の学会レベルのデータベースはないのかなと思いました。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/12/05 09:50 >人口動態調査に人為的な操作が加わっているかどうか

人為的な操作は
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
1.期間限定
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001028897
から見れる公開情報が平成7年からのデータだということです。
それ以前もあると思いますが、ここからわかりません。他の場所にデータがあるかも知れませんがそこのリンク先は提示されていません・
2.法的根拠
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1b.html
目的は明示されていますが、法的根拠が明示されていません。
3.予算・人数の非公開
どの程度の予算・人数を使ってされているかが非公開です。
このあたりでしょうか

BugsyBugsy 2011/12/05 12:05 遠い昔の記憶ですが AIDS日本上陸なんてありました。
それから頻々として悪性リンパ腫の国内発症が急に増加したなんて報道があったもんです。
良く考えると10年―20年のスパンで日本の高齢化は進んでいるわけで 免疫応答の弱った高齢者の悪性リンパ腫
は増えて当然だったのです。それを思い出しました。

今回の白血病の発症年齢のうち高齢者の部分で増えたのではありませんか。オイラはそれが気になるのです。

当薬竜胆当薬竜胆 2011/12/05 12:39 統計の戯れを少ししてみると、平成22年1月から平成23年5月までの前年度比増減率17サンプルの統計要約は

第 1 四分位 0.7%、中央値 2.4%、第3四分位 5.2%

ですので、6.6%やや外れた値ですが、上側ヒンジの8.9%には満たないので気にするほどの外れ値ではない。

敢えてt-分布に従うと考えて6.6%の上側確率を求めると、0.08となるので、このくらいのサンプル数を取っていればあり得る確率です(少なくとも1回起きる確率は、0.75)。

個人的には、上記の中央値が、0ではなく、プラス側にある要因に興味をひかれるのですが。

YosyanYosyan 2011/12/05 12:48 Bugsy様

 >今回の白血病の発症年齢のうち高齢者の部分で増えたのではありませんか。

確認してみると、まず悪性新生物の死亡者統計ですが、

80-84 16943 23978
85-89 14577 22230
90-95 6938 13247
95-99 1547 4784

前の数字が2000年、後の方が2010です。高齢者の悪性新生物の絶対数は確実に増えています。白血病を探すのが大変なんですが、とりあえず見つけられたのが人口10万人対のものですが、前が2000年、後ろが2010年です。

65歳以上 17.8 20.1 
75歳以上 22.8 27.2
80歳以上 25.3 29.7
85歳以上 26.8 30.5

高齢者の白血病は死亡率も絶対数も確実に増えていると見ても良さそうです。

BugsyBugsy 2011/12/05 14:55 Yosyanさま
お忙しい時間にも拘わらず ちゃっちゃとお調べいただいて有難うございます。
ある種の悪性腫瘍と免疫 あるいはウィルスの蔓延とはっきりと関連付けられるものもあります。白血病については存じ上げませんが 脳腫瘍だと高齢者ほどグリオーマの悪性度は上がっています。
俗説なんでしょうが、年寄りほど癌の進行が遅いなんて言われるようですが、オイラの分野ではむしろ早いですねえ。

nomnomnomnom 2011/12/05 23:05  血液学会では、何年か前から血液疾患登録始めてます。ネット上では出てなかったかと思います。地域がん登録も始まりましたが、これもリアルタイムではなくて仮登録から、本登録まで6ヶ月のタイムラグがあります。
 死亡統計から増えていることを考えるにしても、発症からのタイムラグがあります。まあ今回は、Yosyanさまのおっしゃる通り、統計データの数字はちゃんとみませうのレベルなんですが、かりに6月に本当に白血病の死亡者数が上がったとして、無治療の急性白血病でも2−3ヶ月は持つことが多いし、まして治療すれば、なおる人も出てきましてもなおらないまでも、半年以上持つことはざらです。ざっと急性白血病一般としても高齢者でも11ヶ月程度、若年だともっと持つことが多いです。(もちろん急性白血病でも、予後のいいもの悪いもの様々ですが)まして慢性白血病なら、数年以上、TKIでてからかなり増悪する人はまれ。慢性リンパ性白血病なら自然経過でも10年以上はざら。もしかりに6月の死亡者が増えたのが誤差範囲以上のものだとしても、実際の臨床的発症は、今年の3月以前、分子生物学的な発症となると数年以上前。どう考えても今回の原発事故とは関係なし。
 映画やドラマの影響で、白血病は若い人の病気のイメージですが、じつは高齢者ほど多く、今後も原発事故とは関係なしに、団塊の世代が高齢化すると増えていきます。
 Bugsyさま
「年寄りにできたがんほど進行が遅い。」といわれる方は多いですが、いつも嘘ですと説明します。進行のスピードはそのがん種によって違う。白血病でも慢性と急性では違いますし、リンパ腫でも進行の遅いもの、遅いものがありますし。逆に高齢者の白血病の方が骨髄異形成症候群からの移行であったりして、治療抵抗性のことが多いですね。極端なたとえとして、「癌ていう一つの病気はないのですよ。」説明しています。

BugsyBugsy 2011/12/06 00:18 nomnomさま

>「癌ていう一つの病気はないのですよ。」説明しています。

いいっすねえ、これ。著作権なんておっしゃらず、自分たちにもこの言葉是非使わせてください。オイラの専門の脳腫瘍は数十年前から全国統計やってます。やっぱり高齢者の悪性腫瘍は増えています。いや悪性腫瘍になる高齢者が増えているともいえますね。分子生物的にローグレードの星細胞腫が発見されねば年数を経ると悪性化するというのもあるし、まあ高齢化して転移性脳腫瘍、原発巣不明なんて例はうなぎ上りです。脳外科医の思いとは別に 癌の数ほど転移性脳腫瘍は潜在的に存在していると感じ始めています。遠隔転移という事で脳外科に紹介されないだけなんです。少なくはないはずです。

加齢とがん発症って古くて新しいテーマです。免疫能低下だけなんですかね。それと悪性であればあるほど細胞が幼弱化しています。先祖がえりかなあ?胎生期の細胞が残ったとも思えないし。年寄りの腫瘍組織で胎児の細胞みたいなのが見えるとしみじみ考えますよ。白血病も幹細胞みたいなのがあるんですかね。興味が尽きません。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/12/06 05:08 歴史的には
人口動態調査そのものが人為的な操作ともいえると思います。(少なくとも江戸期には
無かった)

がん関連の学会はいくつかあると思いますが、学会レベルで原発の影響で白血病が増えているという噂について何かコメントを出されているところがあればと思いました。

色々な表現方法があります。本例に仮に使用してみると
「原発の影響で白血病が増えているという噂について」(そのまま)
「原発の影響で白血病が増えているという噂についての見解」
「原発の影響で白血病が増えているという噂についての考え方」
「原発の影響で白血病が増えているという噂についての基本的姿勢」
「原発の影響で白血病が増えているという噂についての緊急声明」
など
日医は
ネット上の書き込み「白血病患者急増 医学界で高まる不安」について
でした。

nomnomnomnom 2011/12/06 20:09
Bugsyさま

どうぞおつかいください。
 あとよく使う台詞に「9割治る治療でも、なおらなかった1割に入れば、あなたにとっては100%治らない治療だし、1割しか治らない治療でもそっちに入れば助かる治療。治療成績はいえてもあなたがどちらに入るかはわかりません。」納得される方もおおいです。

 ところで、悪性リンパ腫のWHO分類第4版(2008)のなかの、びまん性大細胞リンパ腫の一亜系として老人性EBV陽性びまん性大細胞リンパ腫(EBV positive DLBCL of the elderly)という概念がいわれています。高齢になっての免疫低下の関連がいわれています。
 
 白血病幹細胞は、トピックスの一つですよ。CMLがグリベック等のチロシンキナーゼ阻害薬で抑えれるものの、完治が困難というのも白血病幹細胞レベルで残っているといわれており、白血病の治癒を目指すには、白血病幹細胞レベルの根絶が必要かと、いろいろ研究されております。

 これも患者さんによくいうたとえですが、「血液は造血幹細胞からいろいろな段階に成熟して、白血球、赤血球、血小板などの細胞になってそれぞれの働きをします。人間でいえば赤ちゃんから、幼稚園児、小学生、中学生、高校、大学そして社会人になってそれぞれの職場で活躍するようなものです。急性白血病ていうのは、かってに未熟な段階の細胞(芽球)が増えている状態、たとえでいえば幼稚園児や小学生だけ集めて会社が運営できないのと同じ状態ですよ。これではまともな社会は維持できません。」