受贈本紹介

 南條竹則泥鰌地獄と龍虎鳳』ちくま文庫

 南條さんのお書きになるものを讀んでゐると駘蕩たる氣分が萌して來て、暫し浮世の憂さを忘れます。標題に出る泥鰌地獄は料理名であります。
〈鍋に水を入れ、生きた泥鰌(どじょう)と豆腐を一緒に入れて、火にかける。水がだんだん熱くなると、泥鰌は苦しいので、冷たい豆腐の中にもぐり込む。そいつをそのまま煮てしまえば、オツな泥鰌入り豆腐が出來上がる。これを「泥鰌地獄」と称するのだ。〉
 此處までは私も同じやうな話を聞くか讀むかしたことがあります。でも食べたことは勿論、食したといふ人にも會つたことはありません。こんな料理が本當にあるのかどうか、常々〈口福〉を追求してやまない南條名探偵が和漢を股にかけて調べ上げて下さつたのですぞ。面白くないわけがない。

 「幽」vol.20 メディアファクトリー

 第一特集〈怪談文芸アメリカン〉の紀田順一郎さんと荒俣宏さんの対談は貴重ですね。あゝさうだつたのか……と腑に落ちる逸話、感歎する挿話の連續です。

 東雅夫*編『日本幻想文学大全 幻視の系譜』ちくま文庫

 東雅夫『日本幻想文学大全 日本幻想文学事典』ちくま文庫

 460頁に亙る近代現代作家列伝〈作家クロニクル〉は氣合の入つた勞作ですが、〈古典ガイダンス〉は殘念ながら略々たるもので(此のシリーズの2冊のアンソロジーに於ける古典の扱ひも同樣)、寧ろ古典には觸れずに近代現代一本で押し通した方がよかつたのではないでせうか。事典と稱するのは御本人もむず痒い氣がするのでは……と推察、やはり案内とすべきでせうね。東さんは此の分野に於いて既に數多の實績を擧げていらつしやるのですから、此の邊りで鋏と糊を操る手法に訣別し、此れまでの蓄積を活かして〈大冊の通史〉の如きを執筆していたゞきたいと切に願つてゐます。

幽 Vol.20 2014年 02月号 [雑誌]

幽 Vol.20 2014年 02月号 [雑誌]