売買の瑕疵担保責任

民法で一番ややこしいのがこの売買における売り主の瑕疵担保責任でしょう。つまり売買があったとき、それが何らかの形で最初の契約通りでは行われなかったとき、売り手がどういう責任を取るべきか、という話です。

次の6種類の売買類型を考えます。

  1. 全部他人物売買
  2. 一部他人物売買
  3. 数量不足・一部滅失
  4. 用益物権による制限
  5. 隠れた瑕疵
  6. 抵当権等による制限

これに関しては合格道場民法テキスト5という形で非常に整理された表があるのですが、有料コンテンツなので勝手に持ってくるわけにもいきません(回し者じゃないですが、本当に合格道場はおすすめです)。

本稿ではちょっと別のアプローチを取ってみましょう。上は6つも類型がありますが、実際には4パタンに事実上縮約することができます。

実は、

  1. 全部他人物売買
  2. 「一部他人物売買」と「数量不足・一部滅失」(グループA)
  3. 用益物権による制限」と「隠れた瑕疵」(グループB)
  4. 抵当権等による制限

の4類型だけと考えてもいいのです(これは正式の学説ではなく、あくまでも行政書士試験対策として便宜的に考えているだけですのであしからず)。

「一部他人物売買」と「数量不足・一部滅失」(グループA)

共通するのは「契約したときの数量全体を引き渡せない」ということですね。

原則、

  • 善意の場合、契約解除・代金減額請求・損害賠償請求ができます。
  • 悪意の場合、何もできません。

…といいたいところですが、一部他人物売買の場合は、悪意のときでも代金減額請求だけできます。いくら他人物を買い付けることを知っていても、全部の土地が手に入らないのに代金は同じというのは切なすぎますね。

一方で、数量不足の場合は、数量が少ないことが分かっているのに、同じ代金を払ったということは、事実上、高い単価をのんだということです。ですので、悪意のときには何の救済措置もないわけです。

契約解除は、残存する部分だけでは買い受けなかったときだけです。つまり一部買うだけじゃ意味がないと買い手が考える場合ですね。

用益物権による制限」と「隠れた瑕疵」(グループB)

用益物権による制限って、要するに「用益物権≒瑕疵」みたいなものですよね。
というわけで、

  • 善意→契約解除・損害賠償ができる
  • 悪意→何もできない

です。ただし契約解除ができるのは、目的を達することができない場合だけです。

実はグループ A とグループ B は同じ??

要するに基本パタンは、

  • 善意→契約解除(だだし売買の目的が果たせない時だけ)+ 損害賠償
  • 悪意→なにもできない

なんですよ。ただし、グループ A では一部に関しては普通に売買が成立しているので、これを生かすために、代金減額請求があるわけです。代金減額請求は、契約より少ない数量の取引の代価を調整する趣旨なので「少ないけど同じ金額でいいよ!(数量不足・一部滅失(悪意)のケース)は、保護されない(代金減額請求ができない)というわけです。

あとグループ A では「売買の目的が果たせない」というのを「残存する部分だけでは買い受けなかった」と言い変えているだけです。

実は全部他人物売買も同じ?

全部他人物売買も基本、

  • 善意→契約解除(だだし売買の目的が果たせない時だけ)+ 損害賠償
  • 悪意→なにもできない

のパタンの応用と考えてよいと思います。ただし、この場合、売買の目的が果たせないのは分かり切っていますから、善意のとき常に契約解除できます。また悪意でも契約解除はできます。考えてみると、他人の土地が手に入らない=履行不能(に近い状態)なので、解除するしかないですよね。でも悪意では損害賠償請求はできません。

ちょっと変わっているのは「抵当権等による制限」だけ

これは簡単で、善意悪意に関係なく、契約解除と損害賠償請求ができます。自分が設定したわけでない抵当権が行使されて、所有権を失ってしまうのは、たとえ抵当権という制限に悪意であっても、かわいそうだから保護しようよという趣旨でしょう。気持ちは分かります。

行使期間(除訴期間)

グループ A + グループ B について、善意のとき「知った時から1年」です。
例外的に、一部他人物の代金減額請求では「契約のときから1年」と少し厳しくなっています。

結語

結局、原則は、

  • 善意→契約解除(だだし売買の目的が果たせない時だけ)+ 損害賠償
  • 悪意→なにもできない

ですね。で、一部だけでも取引が成立したら代金減額請求でそれを生かす工夫をしたり、悪意でもさすがに気の毒という場合は保護(全部他人物の契約解除・一部他人物の代金減額請求・抵当権等による制限)というバリエーションがあるわけです。