デザインとは「目的の創造性+手段の創造性」です。

 
デザインを考えるとき、同じような製品なのに、
小さな魅力をうみだすデザインと、大きな魅力をうみだすデザインがあります。

iPod」と「ウォークマン」の新旧対決の構図(構造)は、
その違いを分からせてくれます。

世界的な大ヒット商品「iPod」を、追撃する本家「ウォークマン」は、
オーディオメーカーでもあるソニーの高い技術を駆使して、
2010年には、国内販売台数で、実は「iPod」を抜いています。
高品質、高性能の勝利と考えられました。

しかし、そのことが評価されるよりも、
そもそも、「競争の本質」が違っていると指摘されてしまいます。

その違いを浮かび上がらせてくれる
インダストリアルデザインにおける名言があります。
「橋をデザインするのではなく、河をどう渡るかをデザインするのだ」です。

「手段」をデザイン(設計・改善)するのではなく、
「目的」をデザイン(創造)するのだ、ということです。

ウォークマン」は、優れた「橋(手段)」としての高品質・高機能に
焦点をおき、音質、録音容量、バッテリー持続時間、耐久性など
スペックをデザイン(改善)していますが、
iPod」は、優れた「河の渡り方(目的)」をデザイン(創造)しています。

ご存知の通り、「iPod」は、当時の競合製品を凌駕する大容量メモリーに、
ユーザーの音楽コレクション・全曲を持ち歩くというアイデアです。
複雑な操作をシンプルにした直観的操作の円形入力装置「クリックホイール」や、
パソコンで、イージーに楽曲のダウンロードができる
ソフトウェア「iTunes」もあって、新しい音楽の楽しみ方(目的)が、
デザイン(創造)されています。

さらに、欲しい曲をたった一曲でも、安価に入手できる今までに無かった仕組み、
インターネット上の楽曲配信ビジネス「iTunes Music Store」があり、
つまり、音楽会社のガード(支配)から、デジタル本来の恩恵をも
開放しています。それは、コストがかからないデジタルデータだからこそ
多くの人々が、多くの楽曲を、楽しめるメリットです。

そして、その素晴しい内容を実感、増幅させる
美しく質感の高い洗練されたデザイン(スタイリング)も、
人々のハートを直撃しました。


そもそも、コンピュータ・メーカーである「アップル」が、
オーディオ・メーカーでもある「ソニー」の音質などの品質において
勝てるわけもありませんが、「iPod」の
この「新しい音楽の楽しみ方(河の渡り方)」のデザイン(創造)が、
ユーザーからの熱い支持に繋がっています。

iPod」と「ウォークマン」は、
「人間中心」と「機械中心」の考え方の違いともいえます。

ウォークマンが、国内販売台数で「iPod」を抜いたのも、
iPod」ユーザーが、音楽も聴ける「iPhone」に移った影響によるといいます。

「手段」のデザインは、「小さな強さ」をうみだし、
「目的」のデザインは、「大きな強さ」をうみだします。
「手段」の創造性が、「目的」の創造性を、凌駕することはありません。

この魅力の「違い」が、見えること、分かることが、
これからの会社経営にとって競争力を産むデザインの理解と活用が実現できます。

「作るから創るへ」の発想の転換が必要です。

多くの会社がブランド化を目指して高品質、高機能の商品を
「手段」の創造性だけで作られても、画龍点晴を欠いて売れないのは、
人の心に響く「ハートフルな美的価値」である
「目的」の創造性が、創られて無いからです。

今、真剣に、「デザイン」が求められている時代ですが、
デザインの正体が理解されていないため、
こうした致命的な混乱と矛盾がうまれています。

つづく・・・・・・・


by Axle