「報道特集」、ダマラさん殺害事件について

1月21日のTBS系列「報道特集」でネパール人男性ビシュヌ・プラサド・ダマラさん殺害事件をとりあげていた。警察、メディアのいずれも捜査、取材を終えておらず暫定的な報告として受けとめねばならないだろうが。
まず、逃亡中の2人を含む被疑者はダマラさんへの暴行直後にも日本人グループと「トラブル」を起こしていたとのことで、警察は4人が「無差別に」喧嘩を売っていたとみて捜査しているとのこと。しかしダマラさんに対しては死に至る執拗な暴行を加えたのに日本人相手だと「トラブル」にとどまったのはなぜか*1、この点をきちんと詰めておかねばヘイトクライムではないという判断は下せまい。ただ、「サッカーボールのように」についての私の推測は今のところ撤回する必要はなさそうである。もし被疑者たちが被害者の頭をサッカーボールに見立てて蹴るという“ゲーム”に興じていたことを「サッカーボールのように」と供述していたのであればより悪質な犯行ということになるだろうが、防犯カメラの映像をみる限りではそうした様子は見られない。むしろ執拗に自転車を投げつけたことの方に強い印象をうけた。


ひょっとすると犯行の動機以上にわれわれが考えるべきことではないかと思わされたのは、ダマラさんと彼が経営するレストランの従業員2人の計3人が無抵抗だった理由についての取材結果だ。「〔ダマラさんから〕日本では“手を出してはいけない”ということを教えられていたので、殴り返さなかったのです」と従業員の1人が語る。これはダマラさん1人の考えではなく、「日本でけんかをしても外国人に良いことはない」は在日ネパール人が受け継いできた“教え”である、と。スタジオの解説では東電OL事件(ネパール人男性が有罪判決をうけたが、冤罪の可能性が指摘されている)の影響が指摘されていたが、司法による不平等な扱いによって不利益をうけることを恐れている、ということだろう。
また、とある在日ネパール人男性が指摘していたのが、リンゼイ・ホーカーさん殺害事件とのメディアの扱いの差。これについては在日アジア系外国人の支援を行なっているNPO団体の副代表も取材に答えて指摘していた。メディアが大きく扱えば司法もあからさまに不平等な扱いはしにくくなるであろうに、司法の差別意識をメディアの無関心が助長している、ということであろうか。
4人の被疑者の「内面」に差別意識があったかどうかはまだわからない。だがはっきりしているのは、この社会に存在する差別がこの事件と密接に関わっている、ということだ。

*1:もちろん、「日本人グループの方は手強そうだったから」といった理由があり得ることをア・プリオリに否定することはできない。