東京V戦後に話したハイプレス・ハイラインの問題に関して、わかりにくかったかなと思うので簡単にまとめてみます。
・攻め込まれると、プレスバックが薄いので数的同数・数的不利になりがち
・プレスバックが薄いのは、1ボランチで前掛かりだから
・前掛かりでないと、ハイプレスが継続できない
・継続的なハイプレスがないと、裏に出されるのでハイラインが維持できない
・プレスを回避され、攻め込まれると…(一番上に戻る)
現状の守備における大きな問題は、これなのかなと思います。
これを回避するためには、良い形で攻め込まれないようプレスを90分間維持すること。
あるいは、状況に応じて戦い方を切り替えることしかないのではないかと思います。
しかし、5-0で勝利した長崎戦でも最後まで攻めて続けたところを見ても、戦い方を切り替えることは考えてはいないのでしょう。
基本的にハイプレス・ハイラインの継続は、前へに圧力をかけ続けなければいけないため、体力的にも精神的にも楽ではないサッカーだと思います。
それだけに「自分たちは出来るんだ」と思い込んでやるしかなく、ある種の逃げ道を作ってしまってはそこから油断が生まれ、中途半端な状態になりかねないという考えなのかもしれません。
また、毎試合90分間プレスを維持するのも、無理があると思います。
以前も説明したリトリートしながら前数人でプレスをかける形が流行しているのも、パスの出所を抑え続けるのは現実的ではないという考えがベースとしてあるからではないかと思います。
それをやろうとしているわけですから、どうしても無理が生じてきますね。
長崎戦のように後半開始と同時に町田を投入して、プレスを"延命させる"という考え方もできるかもしれません。
ただ、それは小手先での修正にしかならないと思うし、エスナイデル監督は基本的に選手起用や選手交代が得意なタイプではないと思います。
そもそもとして立ち上りから全力で行って先に点を取らなければ勝てないサッカーなだけに、主力をベンチに温存するような方法は得策とは言えないかもしれません。
結果的に猪突猛進に"当たって砕けろ"なサッカーになっていて、相手が研究してスッとかわされると一気に脆さが出てしまう。
だから、自分たちのサッカーを貫く名古屋や山口、ジェフ対策をやり切れなかった長崎には勝てたものの、それ以外の試合では苦戦してしまう。
しかも、前掛かりなわりに攻撃力ももう1つなので、直球中心なのにストレートにキレがない投手というか、強振多用でたまに長打は出るけど打率の低い打者のようになっている印象です。
勢い先行で押せ押せの状況を作り出すサッカーなだけに、近年のジェフサポの趣味には合ったタイプなのかなとも思います。
むしろ合い過ぎて、お互いの課題を埋め切れない関係性なのではないかとも思いますが…。
ただ、国内のサッカーでも海外のサッカーでも、あるいは別のスポーツでもそうだと思いますが、勢いだけでは本当に強いチームにはなれないでしょう。
チームにおける深みや厚み、どんな状況でも戦える適応能力や柔軟性などがあってこそ真の強いチームになれると言えるのでしょうし、現状のジェフにはそこが欠落しているのではないでしょうか。
さて、連戦最終日となる日曜日の試合では、熊本と対戦します。
熊本といえば、巻の在籍するチーム。
前々節湘南戦まで12試合出場1ゴールとまずまずの結果を残していますが、ポジション争いは厳しい状況なのかなと思っていました。
今季の熊本には、名古屋でプレーしていた20歳のブラジル人FWグスタボが加入。
開幕当初は途中出場メインでしたが、4月16日の湘南戦でスタメン出場を果たすとその日にゴールを決め、そこから前々節まで6試合連続スタメンで3ゴールをマーク。
177cmながらもパワフルでスピードがあり、足元でのキープも出来るストライカーといった印象です。
加えて、前々節ではこちらも19歳と若いブラジル人FWモルベッキが初スタメン。
185cmながら前への推進力もある選手で、ポテンシャルの高さを感じる選手です。
グスタボに比べると足元などに粗削りな印象があり、身体もまだ細いように見えますが、ばねのあるタイプなのかなと感じます。
さらに前々節は、負傷離脱していた元ジェフのアン・ビョンジュンも復帰。
最近はメンバー外が続いていますが八久保や平繁もいるし、齋藤恵太や田中達也もFWでプレーできる。
その他のポジションは薄い印象もある熊本ですが、FWは粒揃いとなっているように思います。
それだけに巻も厳しい状況になりつつあるのかなと思っていたのですが、もう巻はそういった立場でもないのかもしれませんね。
激しくスタメンを争うというよりは、チームが厳しくなった時に頼れる存在になっている。
横浜FCのカズの立ち位置に近いところまで来ているのかもしれません。
そして、実際に前節岐阜戦ではチームが4連敗中な上、連戦でのアウェイという厳しい状況の中でスタメン出場。
キャプテンマークをつけて、チームを引っ張っていきました。
この大事な試合で巻とアンは2トップを組み、共にゴールを決めてみせました。
清川監督が2年目の指揮を取る熊本は、基本的には昨年と同じ戦い方だと思います。
4-4-2がベースでしっかりと守備を固めて、縦に鋭いカウンターを仕掛ける。
堅守速攻のスタイルとなります。
しかし、今年は守備における局面での甘さやミスも目立ち、4月1日の名古屋戦では1-5で、4月29日の横浜FC戦では1-4で大敗。
それに加えて前々節まで勝ち星から遠ざかっていることもあって、前節岐阜戦ではスタメン7人を変更。
巻とアンの2トップも、守備の改善を念頭に置いてのものだったのかもしれません。
立ち上がりから、巻は守備で大きく貢献。
巻の場合、運動量だけでなくポジショニングやチェックのタイミングも良いので、この年齢になっても守備で活躍できるのでしょう。
中央でパスコースを消しながら、プレスバックも効果的に行い、岐阜のパスワークを自由にさせませんでした。
中央の攻撃を巻とアンが食い止めて、サイドにパスが出たらSHが縦にチェックに行く。
そして、攻撃に移れば、巻が起点となってアンや2列目の選手を動かす。
あるいは、久々のスタメンとなった田中達也が右サイドを駆け上がって、巻とアンにクロスを供給する形でゴールを狙っていきました。
そして、15分。
熊本GK野村からのロングキックを、巻がうまく裏に落としてアンが飛び出したところをヘニキが倒してFK。
これをアンが直接狙い、相手選手に当たって軌道が変わり、ゴールネットを揺らします。
その後も、パスを繋いでチャンスを狙う岐阜と守ってカウンターの熊本は一進一退といった印象。
32分には熊本の決定機。
巻がプレスをかけ、前に出ていたGKビクトルにバックパスさせたところを、アンがサイドで奪って中央へ。
上原がフリーでシュートを放ちますが、大きく外してしまいます。
後半に入ってからは、熊本が中盤で岐阜の動きを止められなくなり、守備の間をパスで繋がれる回数が増えていきます。
そして、53分。
岐阜の永島が中盤の間をスルスルとドリブルで掻い潜って、ミドルシュートを決め同点に。
その後も岐阜の勢いのある仕掛けが目立っていましたが、熊本はそこを耐えると60分頃から盛り返していきます。
そして、65分。
巻が落としたところから右サイドに展開し、黒木が1人かわして田中がクロスを上げると、ファーで待ち受けた巻が右足でシュートを決め勝ち越しゴール。
その後も熊本は集中力を切らさずに、しっかりと守備で対応。
終盤には岐阜のチャンスもありましたが、何とかそれを凌ぎ2-1で久々の勝利をあげています。
巻は76分までプレーし、グスタボと交代しています。
勝因の1つは、巻とアンが球際で戦えていたことではないでしょうか。
熊本は堅守速攻のチームではあるものの、バランスよく守って中盤が前に行ける状態なら良いですが、押し込まれると脆いところがある。
それが後半開始から15分頃までに出てしまったと思うのですが、そこで2人がターゲットになって押し返す、前からの守備で貢献するといった活躍をしたことで、何とか1失点で耐えきれることが出来たのではないかと思います。
守備的なチームは苦手なジェフではありますが、相手を押し込むのは得意なサッカーをしているわけで、決して相性が悪いわけではないようにも思います。
しかも、熊本は岐阜、千葉と遠方へのアウェイ連戦。
コンディション的にも楽ではないはずです。
逆にジェフはホームだと、ここまで負けなしとなっている。
これはホームの方がコンディションが良い、あるいは勢いを保ちやすいといった点があるのかもしれません。
それによってプレスを継続しやすく、自分たちのペースで戦えるのかなとも思います。
はまれば強いけれども、はまらないと弱い。
しかも、そのスイートスポットが狭いように感じる今年のジェフ。
奇抜なサッカーをしているからこそ、そういった状況になっているのでしょう。
そこに立ちふさがる熊本が、巻やアンをどのように使うのか。
前半からプレスをかけていくため、2人をスタメンで起用するのか。
それとも、東京Vが後半からドウグラスを起用して勝負を仕掛けたように、温存していくのか。
連戦の疲れなどもあるでしょうから、どのような起用法をしてくるのか注目ですね。
もちろん、選手の起用法が気になるのはジェフも同じこと。
巻はもちろん、清武の古巣対決なども含めて、見どころの点の多い試合ではないかと思います。