いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「かくて飛竜は涙を流す The Dragons' Tear」五月猫文(講談社ラノベ文庫)

かくて飛竜は涙を流す The Dragons’ Tear (講談社ラノベ文庫)
かくて飛竜は涙を流す The Dragons’ Tear (講談社ラノベ文庫)

「ソウタ。私と竜に乗ってほしい」
長く続く戦争の中、帝国空軍のエースガンナーとして連邦空軍の敵を撃墜してきたソウタ・カシワギは、ある戦闘で敵――竜騎兵の少年を撃つことができず、戦争が終わったこともあり、除隊処分となってしまう。自らの行くべき方向に迷うソウタの前に現れたのは、〈ドラゴンスレイヤー〉――人に害為す〈黒の竜〉を狩る一団の船長と、竜騎兵の少女・シノだった。急かされるようにシノの操る竜に乗せられるソウタだが、目標を捉えたとき引き金を引くことを躊躇してしまうのだが――。第5回講談社ラノベ文庫新人賞〈大賞〉受賞、少年と少女が竜と人とを結びつけながら、空を翔ける物語。

惜しい。凄く惜しい。
戦闘機と竜が共存するロマンあふれる世界観をプロローグで派手に魅せて掴みは完璧。(世界情勢的にも科学力を見ても「第二次大戦時+竜」というのが想像しやすいだろう)
ストーリーは親と死別した過去や戦争による心身の傷で心が半分以上眠っているような二人、主人公・ソウタとヒロイン・シノが出会いお互いを助けあっていくボーイミーツガールで、甘さはないがハートフルさは十分で、生きる意味を見つけていくというテーマもはっきりしていて良かった。
それらを上手く料理してくれれば傑作に成りえたのだけど……。
とにかく目立つのが説明台詞の多さと長さ。
時代背景にしろ科学にしろ裏設定みたいな細かいところまでキャラに語らせるので、台詞が無駄に長くて不自然だと感じるところがかなりある。考えた設定は使いたい気持ちは分からなくはないが、そこはグッと押さえてキャラクターとストーリーの流れを大事にしてほしかった。
またその説明に押し出されたのか、それぞれのエピソードが薄い。
例えばソウタがお社に潜入するところは難しいことをサラッと流してしまっているけど、その大変さが分かるほど再開の感動が大きくなるのに。あとはマルグリット号が高高度に上昇するところ。ここはじっくりやってラストに向けて気分が高めていかないと。そこからラストにかけての駆け足感のもどかしさと言ったら。
大枠がとても良かっただけに中身のバランスが悪いのがもったいない。良いところも悪いところも大いにある新人賞らしい作品だった。