かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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『日本の国境問題』(孫崎享)

日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905)

日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905)

尖閣諸島北方領土を中心に、日本の抱える国境問題を時事的かつ歴史的に論じた本です。国境問題を棚上げにして外交関係を執り結ぶ実利を重視してきたこと、漁業協定などを通じて棚上げをある意味担保する仕組みを保持してきたことなどの歴史を踏まえ、北方領土尖閣諸島竹島がどちらの領土と考えるべきかではなく、それらの問題を孕む日ロ、日中、日韓関係をどう運んでいくかという問題意識が中心となっています。その上で、例えば昨年の中国漁船衝突事件を受けた菅内閣の対応を、パンドラの箱を開けるようなものとして疑問視しています。
しかしまあ驚いたのは、如何に自分が日本の国境問題について断片的な知識しか持っていなかったかということです。それこそポツダム宣言以降の条約などを見て、「竹島は日本領か韓国領か」といった意識で考えたりはするので須賀、実質どのような形で棚上げなりがなされて今に至るのかという、当該国との外交関係や国際関係を見据えた視野がなかった。その点では、終戦から日ソ共同宣言前後までの経緯を見れば、国後・択捉が日本領であるとする主張には疑問符を付けざるを得ず、当時の外務省幹部もそれを認識していたが、日ソ関係に楔を打ち込もうとしたアメリカがそれを強硬に焚きつけた、という部分は非常に印象的でした。
ただ一つ残念だったのは、この本に誤字の類が非常に多いことです。日本語の構文的にもしっくりこない(と私が感じる)ものも多く、こういう編集的なミスで良書の価値を貶めることは避けてほしいものです。