アントキノイノチ

高校時代、友を「殺して」しまったことをきっかけに心を閉ざした永島杏平(岡田将生)。彼は、父親の紹介で遺品整理業の会社で働くようになった。
先輩社員・佐相(原田泰造)、同年代のゆき(榮倉奈々)と働くことになった杏平は、ゆきの手首にリストカットの跡を見つける。互いに過去に傷を持つ2人は、互いを知るたびに強く惹かれるようになっていった…


観賞日

2011年12月1日





【73点】








さだまさし原作という何とも特殊な原作の映画化作品。

「遺品整理」の仕事を題材としている点は、大ヒット映画『おくりびと』よく比べられる点。『おくりびと』が人々に見守られて「おくられる」人を描いたのに対して、今作は誰にも見守られることなく死んだ人の跡を描く。








いわゆる無縁社会を題材としているわけだが、3.11を経て「死」がより身近になった身としてはより真に迫るものがあるテーマだ。



「死ぬ時は独りだが、人は繋がって生きなければならない」

当たり前といえば当たり前のことだが、主人公の杏平が高校時代に体感した「それぞれが表面的に生きて、無関係を貫く社会」を観ていく事で観客である私たちは当たり前が遠くなっていると気付く。

「無関係の社会」の高校部分は、映画『告白』の雰囲気にも似ている。全体としてトーンが暗く、影を落としている。たとえ空が晴れであっても全く気分が晴れるようにはならない。




















岡田将生が演じた杏平は、もともと吃音で人前でしゃべる時に詰まってしまう人間だった。しかも過去の事件がきっかけで心も壊れ、うつになってしまう。この映画のはじまり、つまり遺品整理業のころには相当よくなっていたようだが、それでもあいさつはあまりせず、ほとんど喋りもせず、喋りもひじょうにぎこちない。




杏平は「人と関わる」こと自体をひどく恐れているようだった。
だがそんな彼も「同種の傷み」を持つ人間と出会うことで変わっていく。






この杏平に共感できる人は絶対にいる筈。特に「自分のせいで…」という意識を持った人は。

自分もなんだか「こんな風に周囲から見られてるんだろうなー」としみじみとしてしまいました。ある意味参考になる映画。
目をなかなか合わせられない感じとか、立ち位置分からない感じとか。





さらに共感しやすかったのは、『英国王のスピーチ』、『ツレがうつになりまして』など、吃音や鬱がより身近に感じられていたからだろう。私自信としては、今年の映画によって病気の印象がガラッと変わり、「映画の力」を強く実感した年だったのかもしれない。



















だが今年の映画による影響だけではなく、岡田将生自体の演技も素晴らしかった。


『告白』では生徒たちの本当の姿に気付かずただ熱血する教師を演じ、『悪人』では直接殺人に関ったわけではないが原因のひとつにもなったチャラチャラした男を演じた彼は、全く色の違う今作の役も演じきった。
ひとつひとつのしぐさを丁寧に演じていて、まさにに心に傷を抱える青年の立ち振る舞いだった。必見の演技です。


個人的には、相変わらず原田泰造が良いスパイスとなっていた。
彼が演じた先輩社員の過去などは語られないものの、優しく杏平たちを指導していくその姿には、彼にも何かあったのだろうと感じられる。背景があるように見える、奥行きのある役になっていた。


















問題は、最後の展開か…
正直唐突過ぎて感情移入がしにくかった。






むしろ最後の展開がなくてもきれいなまとまり方で終われたのではないのかと思う。実際私が一番感動していたorけっこうくるものがあったのは中盤〜後半あたり。
そこもエピソードが中途半端に多めに挿入されていたので、ちょい盛り込みすぎかな…と思ってしまう所。




終盤はあまりにも蛇足。しかも雑。
違う終わり方ならもっとすっきり終われたのになぁ。
ただ展開で驚かせるにしてももっとやり方があったはず。


前半は物語にけっこう引き込んでくれていただけに、ラストで冷めてしまうのが残念な点だった。













それにしても「元気ですかー?」をセリフに入れたいがために、題名をアントキノイノチにしたのだろうか…
観ているとそのためにこのタイトルになった気がしないでもなかった(笑)


↓予告編はこちら↓
http://www.youtube.com/watch?v=G1TaNk2ptdo