139 白子のコミケ 2

どうしてケイスケが今年のコミケに行くときに喜んでいたのかわかったよ。
コイツ、普段は並んでいたんだけれど、今回は警察特権でヘリで一気に会場に入れるからだ。そして有名ブースに並んで一番乗りする気だ。
ヘリの下に見えるコミケ会場は、もう人がゴミのようにいる。どんな人間でもムスカ大佐になれそうな雰囲気である。
「はーははは!見ろ!人がゴミのようだ!
ケイスケがムスカのマネをする。やると思った。
ヘリに乗る前「目立たない格好で来てね」とミサカさんに言われ、それで俺達はドロイドバスターに変身した後、普段着に着替えたのだがミサカさんにもケイスケにもNoを出された。
「変身後の衣装でいいや」
最終的にはそう言われたのだ。
逆に目立つような気がしなくもないのだが…。
しかし、コミケ会場にヘリで降り立つとその意味がわかった…。
俺と同じ格好の奴がいる…。
マコトと同じ格好の奴も、コーネリアと同じ格好の奴も!!
格好は同じだが体格は断然違う。俺達がプードルならあっちはブルドッグだ。ブルドッグに無理にプードル用衣装を着せているから遠目にはプードルに見えるが近づくとそれが拘束着を着せられたブルドッグだということがわかる。
「こ、コスプレ…」
と俺が言うと、
「視線お願いしまーす」
とケイスケの声。
「なんだよ!」
「フヒヒ…」
会場の中はまだコミケスタッフが準備をしている段階だ。開催前らしい。そしてケイスケは大喜びでその『列が出来てないブース』を回って様々な薄い本やコミケ限定グッズを購入している。コイツ、仕事する気あるんか?
俺とマコトは白子のバスケブースへと呼ばれた。
その場所だけでも随分と広い。
「結局、やるんですね?」
マコトが白子のバスケの売り子達に言う。
「もちろんですよ!あ、あの、後でサインお願いします…」
メガネ掛けたデブな女の子がそれに答える。続けて隣にいたメガネを掛けた細い白い幽霊のような腕の女の子が答える。
「去年も脅迫状が出てそれで中止になったんです。直前だったんでブースとかには本とかもう並べてて…悔しいです。だから今回は警察に事前に連絡して、犯人を捕まえて欲しいって思って、あえて開催を決行したんです。あ、あの、後でサイン…お願いします!」
マコトはドロイドバスターとして知名度があるのが嫌じゃないのだろう、ニヤニヤしながら女の子達にサインをしてあげてた。すると俺のほうにも白子のバスケの売り子達がやってくる。
「サインお願いします!ファンなんです!」
「白子のバスケのファンじゃないの?」
「…でも、それは漫画の中の話だしぃ…」
俺はしぶしぶ、色紙に(なぜこれが用意してあるのか知らないが)サインをしていった。危うく普段テストとかに書いてる名前をそのまま書きそうになってグシャグシャと消してから「どろいどばすたーきみか」とひらがなで書く。
「うわッ…字が丸っこくて可愛いですね」
「あぁぁん?」
「ヒッ!」
ケイスケのせいで字まで可愛らしくなっちまってんだよ、察しろ!
俺とマコトは、問題となってる白子のバスケというのがどういう漫画なのか、いや、原作については知ってるんだが、どういう風に同人誌で『改変』されているのか見てみようと思った。
ちょっと顔がアレでデブの女の子の前に行き1つ中身を見せてもらう。
ふむふむ…拍子には美少女マンガに出てきそうな感じの男が二人いるなぁ…つまり、この改変はこの二人の男が二人の女の子とエッチする物語なのかな?
(ぺらり)
ページを捲る。
「」
「」
「」…これが俺とマコトの反応だ。
もう何も言えない。ノーコメント。
「な、な、な、…」
(ぺらり)
震える手でマコトがさらにページを捲る。
「な、な、な、な、な、な…」
(ぺらり)
震える手で俺がさらにページを捲る。
「な、な、な、な、な、な、な、な、な、な…」
「「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」
驚いてチビりそうになる俺達の隣に静かかに近づくさっきのデブの売り子。そして早口で「どうです?エロいでしょ?エロすぎでしょ?きっとお二人も気に入ると思いますよ。デュフ…フヒヒ…」と言った。
マコトは口をパクパクとさせながら、
「男の人の、お、おちんちんが、男の人の肛門の中に入ってるよォ!」
と泣きそうな声で叫ぶ。
「…でゅふ…あれ?おふたりとも、そういう御趣味はないのです?」
俺は涙目になりながら叫んだ。
「あるかぼけぇぇぇぇえぇぇぇ!!」
そして、
「こんなもの、こんなもの、こうしてやる」
そう言って薄っぺらい本を引き裂こうとする。
「やめて!うりものだからー!やめてー!」
デブに取り上げられた。
「ど、同人誌って、ホモなストーリーなの?」
マコトが言う。
彼の中の日本の文化の概念が崩れ去りそうになっている。
「ち、ちがうよ。ちがう…はず…」
俺は震える声でそう答える。しかし日本人の俺でもついていけない文化になってしまっている可能性はある。日本人は時として未来に生きているからな…コミケとはそういう未来に生きる日本人を映し出す鏡なのかもしれない…。ほら、先進国って言葉には色々『先進』しちゃってる意味も入ってるからさ。ケツの穴にチンコ突っ込むっていう先進もあるのかもしれないな。
そこにさっきのデブが再び現れて言う。
「ディュフフ…これはね、腐女子向けの本なの」
「ふ、ふじょし?」
「腐った女の子、で腐女子…デュフフ…『腐女子』はね男の人と男の人が愛しあうものを好きな女子を挿す言葉なのね。それでね、ドラマとかアニメに登場している男性を同じドラマ内の男性とくっつける事をカップリングっていってね、ティヒヒ…そのカップリングを楽しむの…ちゃんとウケとセメがあるのね」
へ、へ、へ、へんたいだー!!!
「男と男がエッチするとかおかしいよ!」
マコトが言う。ごもっともです。
俺もそれに続けて言う。
「だいたい、肛門に何か入れるとか不衛生じゃん!女の子の穴みたいに事前に何か入る前提になってないから、免疫力が弱くてエイズとか感染率が低い病気でもあっというまになってしまうって話じゃんか!ダメだよダメダメ!」
「んもぉ…二人共興奮しすぎ…ただの妄想なんだから…ほら、クラスの女子とかも男子を見て勝手に妄想しちゃってるかもよぉ?」
そ、それなら俺はセーフだな。
なにせ身体が女の子だから仮に腐女子がクラスメートに居たとしても…俺が誰か別の男とセックスするような妄想はないだろう。
「あ、そうだ。ドロイドバスターのお二人の本も出てるよォ…他のブース見て回るといいよ。ティヒヒヒヒヒ…」
不敵な笑みを浮かべて腐女子は売り子としてブースの中へと戻っていった。
俺達の薄い本が出てるのか。
それなら何度か見たことはあるけれども…まぁ、新刊でも見てみよう。作戦までまだ時間があるし。