マキノ映画 時代劇の新しい波

 牧野映画製作所は、寿々喜多呂九平という脚本家を得て、時代劇に新しい波を起こしていた。アメリカの活劇映画に似たスピーディなスタイルが観客に受けた。金森万象、沼田紅緑、二川文太郎、井上金太郎といった監督や寿々喜多呂九平が「マキノを囲る同人社」というグループを結成し、日本の時代劇映画の新境地を開いたのだった。また、長浜慶三、松田定次ら現像部も貢献し、現像の質を上げたのだという。

 朝日新聞連載の前田曙山原作「燃ゆる渦巻」(1924)は、阪東妻三郎が駒井相模守を演じた作品であり、大ヒットとなった。「燃ゆる渦巻」は日活でも作られたが、女形を用いた旧劇調で、松之助も出演したがマキノに及ばず、正月興行においてマキノの勝利となった。

 寿々喜多は他にも、阪東妻三郎主演の「恐怖の夜叉」「山猫の眼」「血桜」「討たるゝ者」(1924)を書いている。

 「討たるゝ者」は、恩のある兄弟の弟の婚約者と恋仲になり、その兄を誤って殺してしまった男が、仇を討ちに来た弟に討たれるという内容である。活劇調に人間味を加えたとされ、「大菩薩峠」の影響も指摘されている。新藤兼人は、「講座日本映画」の中で次のように書いている。「中里介山は、大逆事件の処刑をみて、机竜之介の無明の闇に人を斬る殺戮を発想したといわれるが、中里介山ならずとも、時代はまさに若ものの血をたぎらせずにはおかぬ息づまるような状況にあった」。また、「討たるゝ者」は月形竜之介出世作でもある。

 寿々喜多呂九平は、阪東妻三郎主演作以外でも、活劇調に反逆精神の主人公を描いた「争闘」「刀光」「逆流」「血に狂ふ者」「斬奸」(1924)を書いている。

 マキノでは他にも「桐の雨」(1924)が作られている。衣笠貞之助が最初にてがけた時代劇で、それまでの歌舞伎的な旧劇を現代劇俳優によって写実的に演出した野村芳亭らの時流に乗って作られた作品だ。森鴎外の小説「高瀬舟」を馬場春宵が情話風に脚色している。

 この頃のマキノは、すべてのスタッフ・キャストが革新的な映画を作ろうとする意気に燃えていた。