博士の愛した数式 / 小川洋子

記憶が80分しかもたない数学者の世話をすることになった家政婦と子どもの心温まるストーリー。読後の後味もすっきりしていて、読んだ時はたいそう感動したんですが、どうにも心に残らない小説です。短期記憶が80分しか持たないという設定は、人間関係を構築する上で致命的なです。そんな人と付き合うのは並々ならぬ努力が必要ですし、だからこそハンデを乗り越えて何らかの絆を作ることが出来たらそれはもう尊いものになります。

というような理由で感動したんじゃないかと分析するのですが、今となっては……。記憶が短時間しか持たないという設定があまりいかされていない気がします。とはいえ、このネタを追求すると映画「メメント」や小林泰三「忌憶」みたいな話になり、ハートフルな雰囲気が台無しです。まあ難しいこと考えずにそういう「いい話」だと割り切れば楽しめます。
しかし「ビューティフル・マインド」といいこの小説といい、ちょっとイカれた数学者という記号にみんな萌えてるだけじゃね? という気がします。まあかといって円城塔「Boy's Surface」みたくなると萌えるどころか理解できなくなってしまうので難しいんですが。