あえて苦言を呈す――伊藤計劃×円城塔「屍者の帝国」

伊藤計劃の未完の遺作の続きを円城塔が書く。死せる伊藤計劃、生ける円城塔を走らす。しかもその内容は死せる者たちがゾンビとして労働するという。いやあ、これはもう読まざるを得ないでしょう。でも、あれなんだよなー、冒険小説のくせにびっくりするほど無味乾燥としているんですよ。ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」のアリョーシャが出てきて謎のユートピアを語ったりするのをはじめ、フィクションの登場人物たちが色々出てきて設定は非常に楽しいんですが、退屈な箇所もある。アクションシーンが多いんだけど、それが機械の行進って感じで盛り上がらないんですよ。唯一の例外は最終決戦で、「BLAME!」10巻を彷彿とさせてよかったです。
意識とは何か、みたいな壮大なテーマを負わせて「ハーモニー」のその後を書いた、とか持て囃す人もいるようですが、僕はその手には乗らない。正直言って「ハーモニー」のほうがよっぽど傑作だし、「これはペンです」のほうがよっぽど美しい。無理して新作を評価することは、過去の真の名作への注目を相対的に減退させてしまうので慎むべきです。話はそれたが、言いたいことは、これは人生観に激震をもたらすような作品ではなく、ラノベの延長として読んでほしい、ということです。刊行の経緯が感動的だからといって、作品自体も感動的だなんて求めるのはいけない。
まあ、それでも最後の追悼は、ちょっとほろっときましたけどね。僕が今まで読んだ中で、最高の追悼ですよ、これは。