2000年代を代表するソロ公演 究極の10本【私家版】

2月、3月は助成金等の対象期間において年度末にあたることもあって公演ラッシュとなり、スケジュールの都合上、観たくても観られない公演も続出します。ことにコンテンポラリー・ダンスは盛況で、おびただしい公演が行われていますが、量だけでなく質的に高いものがあるのがうれしいところ。コンテンポラリー・ダンスというある種のフォーマットができつつある面もなきにしもあらずですが、中堅やベテランがボルテージを落とさず既成概念を打ち破る創作を続けている感。先日の「横浜ダンスコレクションR」に来日して審査員を務めていたフランス人ディレクター/アーティストが若手アーティストに望むこととして“確かなものは捨てる”ことをあげていました。既存の手法や価値観に安住したり、自己愛に溺れるダンスほど見苦しいものはなく、観客を劇場から遠ざけます。確かなものを捨て未踏の領域へと進むことは、キャリアを重ねるアーティストであればあるほど求められるし、一筋縄にはいかない厳しい道ではないでしょうか。
そんななかにあって自身の身体を見つめ直す機会となるのがソロ公演でしょう。身一つで、自分と世界と向き合う――アーティストにとっては苦しい作業でしょうが、そこから生まれる新たな表現の誕生に立ち会えるのは観客の喜び。先日も黒沢美香『薔薇の人−早起きな人』東野祥子『VACUUM ZONE』という超弩級の傑作が!。ソロ・ダンスの魅力を再認識するにいたり、ここ10年ほどに見ることのできたソロ公演で新鮮な衝撃を受けたもの、独自の濃密な世界観に深く惹かれたものをピックアップしてみました。洋舞(死語?)限定で、短いソロや劇場外でのパフォーマンス等は除きました。

2000年代を代表するソロ公演 究極の10本【私家版】

黒沢美香『薔薇の人-ROLL-』(2000年)
室伏鴻『Edge』(2000年)
笠井叡『花粉革命』(2001年)
麿赤兒『川のホトリ』(2001年)
田中泯『脱臼童體』(2002年)
白井剛『質量,slide,&.』(2004年)
井手茂太『井手孤独【idesolo】』(2005年)
矢内原美邦『さよなら』(2006年)
勅使川原三郎『ミロク』(2007年)
平山素子『After the lunar eclipse/月食のあと』(2009年)

選んだ10本は単独公演として上演したもの限定。室伏鴻『Edge』は舞踏とコンテンポラリー・ダンスのハイパーな掛け合わせが刺激的でまさに事件だった。黒沢美香『薔薇の人-ROLL-』は繊細精緻な表現力とブッ飛んだ暴走ぶりに圧倒される超傑作。笠井叡『花粉革命』は舞踏/コンテンポラリーの大御所として華麗に復活した記念碑的作品。麿赤兒『川のホトリ』は麿の存在感がとにかくすごくてそれだけで世界が成立しえる稀有な一本。田中泯『脱臼童體』は土方以来の舞踏の歴史に残る名舞台とされるが納得。白井剛『質量,slide,&.』は白井の代表作にして2000年代のコンテンポラリー・ダンスを語る際に欠かせない一本。井手茂太『井手孤独【idesolo】』は動きの面白さと井手のパーソナリティが横溢する愛すべき快作です(5年ぶりのソロ公演がまもなくTOKYO DANCE TODAY #5『イデソロリサイタル [idesolo]』として行われるので楽しみ!)。矢内原美邦『さよなら』では、ダンサー矢内原の絶妙なステップワークが光りました。勅使川原三郎『ミロク』は、今さら解説するべくもない傑作として舞踊史に残るでしょう。平山素子『After the lunar eclipse/月食のあと』は、舞踊界を担うべく存在の平山が出身地の名古屋で行った初の単独ソロ公演。ライトアートや衣装との斬新なコラボレーションによって身体表現の可能性を模索して刺激的でした。
他には、別格として小島章司『鳥の歌A PAU CASALS』(2005年)。カザルス曲に身一つで向き合った驚異的集中力に圧倒されました。ソロの名手たる木佐貫邦子『TOO BRIGHT TO SEE, TOO DARK TOO SEE』(2002年)、山田せつ子『Songs』(2002年)も忘れがたく、伊藤キム『しゃべりながらおどっているところになげこむんです』『ふたりだけ』(2002年)の活躍もありました。寺田みさこ『愛音-AION』の濃密で過激な世界も印象に残っています。ボヴェ太郎『Texture Regained - 記憶の肌理-』は空間と身体の関係性を模索して興味深い。舞踏では小林嵯峨・舞踏アウラシリーズ vol.4”『逃走=フーガ』。アングラテイストですが人を酔わせる麻薬的な魅力あふれた嵯峨ワールドでした。公演単位以外では加賀谷香『パレードの馬』はモダン/コンテンポラリーの可能性を示した秀作として近年最良の成果でしょう。梅田宏明『Accumulated Layout』『Haptic』はワールドワイドな活動を続ける若き異才の傑作で身体表現とメディアアートの稀なる融合でした。
Saburo Teshigawara『MIROKU』

BABY-Q・Yoko Higashino solo dance 『VACUUM ZONE』

Hiroaki Umeda『While Going to a Condition』